ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・39話

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シュレーディンガーの猫になった男

 ボクは、『ゲー』によって身体を粉砕された。
脳も、痛みを感じたのはほんの一瞬で、巨大な拳によって粉々に弾け飛んだ。

「……うう……グッ!?」

 ……ハズだった。
確実に『死んだ』、ハズなのだ。

「なんだ……どうしてボクは、痛みを感じている!?」
 視界には、まだなにも映っていない。
でも、自分の叫び声が微(かす)かに聞こえる。

「どう言うコトだ。ボクは確実に、死んだハズだ……なのに、どうしてボクは、痛みを感じている!?」
 自問自答をする、ボク。
それが出来てしまうコトに、強烈な違和感を感じた。

「……聞こえる、宇宙斗……わたしの……」
 聞き覚えのある声が、頭の中へと流れ込んで来る。
黒乃の声だ。

「ゲーが……お願……避け……」
 でも、本物の時澤 黒乃ではない。
彼女は火星のフォボスの地下プラントに、眠っているハズだ。

「目を開けて、宇宙斗!」
 聴覚ではない何かが、脳に黒乃の叫び声を伝える。

「黒…乃……」
 相変わらず、視界は存在しないままだった。
それでもボクは、必死に目を開けようとする。

「ボクが……死んでいるなら……出来るハズもないコトだが……」
 ボヤけた視界に、どうにかゲーの巨体が確認できた。

 ボクは咄嗟に、腕に持った『何か』を振り抜く。
目の前で巨大な何かが崩れ落ち、ドズンと鈍い音が響いた。

 それから暫(しばら)く、時間だけが流れて行く。
徐々にだケド、視界がクリアになった。
冷凍睡眠カプセルから、1000年ぶりに目覚めたときの感覚に似ている。

「宇宙斗、よくやったわ。ゲーを、倒すコトに成功したのよ」
 黒乃の声は、もはや普段と変わらないくらい鮮明に聞こえた。
そして、それが出来る理由も、ボクには解っている。

「あ、ああ。それで……ギムレットさんは?」
 一縷(いちる)の望みを託して、聞いてみた。

「残念だケド、彼はもう……」
 傍らに立っているサブスタンサーの声を、『耳ではないなにか』が拾った。

「そうか……ギムレットさん!」
 ゼーレシオンは、天を仰ぎ見る。

 そう……ボク、ゼーレシオンに乗っていた。

 右腕には、ゲーを両断したフラガラッハが握られている。
『耳ではない何か』とは、ゼーレシオンの高性能な触角だった。

「ラビリアとメイリンは、無事なのか?」
「ええ。今、わたしの傍(そば)に居るわ」
 黒乃の言葉に、新たな疑問が生まれる。

「キミは、シャラー・アダドーに、乗っているんじゃないのか?」
「いいえ、コミュニケーションリングで、遠隔操作をしているに過ぎないわ。宇宙斗こそ、どうやってゼーレシオンに乗り込んだの?」

 ボクの知りたかった質問が、そのまま返って来た。

「解らないんだ。ボクは階段の踊り場で、ゲーの巨大な拳に押し潰されて、死んだハズなのに……」

「それは、あり得ないわ。だってアナタは、こうやってゼーレシオンに乗って、ゲーを倒したじゃない」
 黒乃の言う通り、真っ二つになって地面に転がっているゲーを、ゼーレシオンの巨大な眼が捉える。

「黒乃……ボクは本当に、生きているのかな?」
「ど、どう言うコト?」

「例えば前に、ゼーレシオンに乗ったときのボクのメモリーかなにかが、制御メモリーみたいなところに残っていて、ゼーレシオンを起動させているんじゃないのか……」

「残念だケドわたしは、ゼーレシオンのコトを殆んど知らない。でも今、宇宙斗はゼーレシオンと同化しているのでしょう?」

「ああ。もしくは、残留思念だけで動いてる可能性もある」
 自分が『巨人』となっている今、自分が生きているかどうかすら、解らないのだ。

「その答えはコックピットハッチを開いてみるしかないわ」
 黒乃は、冷静な声で言った。

「その前に、キミたちの救出が先だ」
 ボクは死刑宣告を、少しでも先延ばししたかったのかも知れない。

「……ええ、そうね。わかったわ」
 黒乃は賛同し、ボクは3人の女性を救出するために、ゼーレシオンを動かした。

「まるで、シュレーディンガーの猫だな」
 ゼーレシオンと言う箱の中に閉じ込められた、ボクの身体。
その生死は、コックピットハッチを開けるまで解らないのだ。

「まさか自分自身がそうなるなんて、思ってもみなかったよ」
 愚痴をこぼしながらもボクは、慎重に作業を続けた。

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