ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第07章・43話

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黒い雨の下の救出

 時澤 黒乃は、汚染された雨が寄せ集まった水溜まりが点在する、何処かへと落下した。

 どれくらいの、汚染濃度かは解らない。
けれども、サブスタンサーでなければ外での活動は、不可能だと彼女自身が言ったのだ。

「今の地球じゃ、外へ出ただけで死ぬかも知れないんだろ?」
「わ、わたし達は実験室育ちだから、外に出たコトないラビ」
「どうなるか、ゼンゼンわかんないリン」

「ふざけてる場合じゃ、無いんだが……クソ!」
 自分で設定して置きながら、気の抜けた語尾に苛立ちを覚えるボク。
身勝手なのは解っていたが、どうしても感情を抑えられなかった。

「ラビリア、メイリン。お前たちは、大丈夫なのか?」
「コックピットハッチはもう閉まってるし、開いたのは一瞬だったラビ」
「ラビリアが移動操縦で、攻撃や防御はメイリンがやってるリン」

 まだあどけない2人は軽い認識でいたが、放射能の影響を受けて無いかが心配だ。
そして、放射能の雨が降りしきる一帯の何処かに落ちた、黒乃はもう……。

 その時だった。
ゼーレシオンの触角が、黒乃の反応を捉える。
高性能センサーを備えていると言うのは、かくも便利なモノなのだ。

「黒乃!」
 彼女は偶然にも、ドームの天井がまだかなり残っている場所に、投げ出されていた。
ゼーレシオンを降下させ、黒乃の傍へと降り立つ。

「頼むから、あってくれよ……ボクの身体!」
 片膝を付いた、ゼーレシオンのコックピットハッチが開いた。

 巨人としての意識が途切れ、徐々に別の感覚が蘇る。
試しに腕を、顔の近くに寄せて見ると、ゼーレシオンの巨大な腕ではなく、見慣れた貧相な腕が目の前にあった。

「よし……ボクはどうやら、生きていた!」
 不可解な台詞だが、実際に自分の生死が不明だったのだから仕方がない。
シュレーディンガーの猫状態を脱したボクは、ゼーレシオンのコックピットを飛び出した。

「放射能濃度も、そこまで高くないみたいだ」
 放射能測定器(ガイガーカウンター)など持てなかったが、少なくとも現時点では即死するレベルでも無ければ、意識を失うレベルでも無い。

 急いで黒乃に近づき、両腕で抱え上げた。
華奢な少女の身体と言えど、フォボスのときのクーリアのようには行かない。
地球の1Gの重力が、容赦なくボクの両腕を下に押し下げた。

「生身の身体じゃ、これが精一杯か。ゲーやウーが、いつ襲ってくるかも知れないってのに!」
 上を見上げれば、ラビリアとメイリンの操るシャラー・アダドが、原始の神々の攻撃をギリギリで防いでくれている。

「ハア、ハア……な、なんとか……ここまで」
 ボクは遠隔操作で、放射能の雨に濡れたゼーレシオンの身体を、ほぼ垂直に起こす。

「コミュニケーションリングが無くても、これくらいの距離だとボクの脳波を拾ってくれるんだな」
 コクピットからシートが、ケーブルに吊られて降りて来た。
あらゆる状況を想定した、ギミックなのだろう。

「まるで、昔見たロボットアニメの主人公だな……」
 ボクはシートに座ると、意識の無い黒乃を膝の上に乗せ抱えた。

 繊細な白い顔が、ボクの胸元辺りで小さく息をしている。
象徴とも言うべき黒いクワトロ・テールは、艶やかに濡れていた。

「黒乃……」
 顔立ちは似ているが、もちろん本物の時澤 黒乃ではない。
少し前まで、太陽系の人類の意志決定機関の、最高責任者(トップ)だった女性だ。

「……ん」
 可憐で美しい少女が、目を開けようとしていた。

「だ、大丈夫か、黒乃!」
 まだゼーレシオンと、意識をリンクさせていないボクは、咄嗟に彼女の肩から手を離す。

「……ここ……は?」
「ゼーレシオンの、コクピットの中だ」

 少女は、力なく弱っていた。
ミネルヴァさんの毅然とした態度でも無ければ、黒乃の独善的な振舞いでも無い。

「そう……わたしはまだ、生きていたのね」
「マズい状況に変わりない。ボクは、ゼーレシオンで戦う……」

「ゴホッ!」
 口を押える、黒乃。
その手からは、赤い血が垂れていた。

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