ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・61話

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究極のトロッコ問題

 焼け落ちる、アクロポリスの巨大な街。
パリやロンドン、北京やニューヨークと言った地球上の街を、デザインの基盤コンセプトとして設計された12の区画を、逃げ惑う大勢の人々。

「止めろ、止めてくれ、クーリア!」
 ゼーレシオンは、降下し始めたQ・vava(クヴァヴァ)を追って、区画の1つへと降り立つ。
周りを取り囲む、レンガ造りの建物の窓からは炎が吹き上げ、街のあちこちで黒煙が立ち昇っていた。

「キミは、こんなコトをする人間じゃない。こんなコトをしては、ダメなんだ!」

 ボクの叫びも虚しく、上空に飛来したQ・vic(キュー・ビック)と命名された立方体の触手が、容赦無く人間たちを消し炭に変えて行く。
それは宛(さなが)ら、20世紀のアメリカのB級映画の様相をていしていた。

 異なっていたのは、アクロポリスの街は火星に存在し、上空に来襲したのは火星人ではなく、時の魔女と同化したクーリアが呼び出した、下僕たちと言う点だった。

「どうすんだ、艦長。とんでも無い数の敵を相手に、単騎じゃ焼け石に水だぜ」
「ですが1機ずつ、破壊していく他に対処法がありません。これだけ街の中まで入り込まれては、アポロのヘリオスブラスターで一掃するワケにも行きませんしね」

 他の区画に降下した、バル・クォーダや、テオ・フラストゥーとその旗下の12機のサブスタンサーも、苦戦を強いられている。
1つの区画が10億の人口を擁する巨大都市を防衛するには、余りに戦力が不足していた。

「クーリア……キミはこの街を、忘れてしまったのか!」

「忘れてなどおりませんわ、宇宙斗艦長。貴方はこの街のホテルで、あの純真無垢な少女を装った女と、何をしたのかを!!」

 Q・vavaは、マントのような胸と背中、両肩のパーツから一斉にレーザーを照射する。
ジョージアン様式やヴィクトリアン様式の建築群が、跡形もなく灰塵と化した。

 ゼーレシオンの前で、紅蓮の炎に包まれている街並みは、アクロポリスの12区画のウチの、やぎ座(カプリコーン)区画のモノだった。

「ヴェル、ボクの娘たちはなにをしている!?」
 ボクは、優秀なフォログラムが答えてくれるコトを期待して、問いかけた。

『彼女たちはアクロポリス宇宙港と、ディー・コンセンテス・タワーの2方面にて、防衛任務に当たらせております』
「一部をこちらに、回せないのか?」

『可能ですが、彼女たちが撃破されるリスクは高まります。全員の命の保証は、不可能となります』
 ヴェルダンディに対して、娘たちの命を最優先に作戦を遂行してくれと、指示を出したのを思い出す。

『どう致しますか。彼女たちのサブスタンサーを、アクロポリスの街に展開すれば、多くの人命は救えるでしょう』
「そうした場合、娘たちが撃破される可能性はどれくらいある?」

『100パーセントです』
「そ、そんな……」
 ボクは、ヴェルの出した数字に落胆した。

「いいですか、宇宙斗艦長。これは戦争なんですよ。戦力差が圧倒的にある場合ならいざ知らず、味方が死なないなんてご都合主義は、戦場では通用しません。現にボクの部下も、半数が撃破されてしまっているんです!」

「メ、メリクリウスさん……」

「構うことは無ェだろ、艦長。アイツらは、元々時の魔女が生みだした手先だ。つまりは戦争用に造られた、人造の尖兵たちなんだからよ!」
 合理主義な考えのプリズナーも、娘たちの戦場投入を指示した。

 ボクの脳裏に、娘たちの無邪気な笑顔が浮かぶ。
MVSクロノ・カイロスの街の銭湯で、触れた少女たちの肌の暖かな温もり。

「す、すまない、娘たちの投入は出来ない」
「で、ですが艦長、このままではアクロポリスの街では、更に多くの人間が死ぬコトとなるんですよ!」

「オイ、偉そうな人工知能。このままあのウィッチレイダーたちが投入されなかった場合、人的被害はどれだけ増える!」
『推定ですが、7億……戦闘が長引けば、更に増える可能性がございます』

「60人と7億……天秤にかけるまでも、無ぇだろ!」
 バル・クォーダからの声が、ボクに選択を促す。

 『究極のトロッコ問題』に、ボクは決断を迫られていた。

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