人質の少女の最期
「どうやらお前のサブスタンサーの装甲は、花弁のフォトンナイフ程度では貫けないみたいね。でも、装甲に覆われてない部分であれば、問題なく刺し貫けるわ」
ナキアさんが操るセンナ・ケリグーは、遠距離からツインテールを構成していた花弁を飛ばす。
ボクは再び、激痛に襲われる覚悟をした。
「これ以上宇宙斗艦長を、やらせはしませんよ!」
ゼーレシオンより一回り大きな水色のサブスタンサーが、突如として飛来し、カーネーション色の花弁の何枚かを剣で叩き落とす。
「その機体、メリクリウスさんか!?」
「ええ、そうです。こっ酷く、やられましたね」
頭部に一角を生やした水色のサブスタンサーから響く、金髪の好青年の声。
「ま、まってくれ、メリクリウスさん。今、動いたらクーリアが……」
「残念ですが、彼女はあきらめる他ありません」
「な、なにを言ってるんだ。彼女は、火星艦隊のシンボルとして……」
「今は戦時です。高貴な人間だからと言っても、命の価値は同じ。御覧なさい、こうしている間にも、大勢の人の命が失われているのですよ」
正論を提唱する、メリクリウス。
確かに彼の言葉通り、ゼーレシオンの巨大な瞳には、戦火の中を逃げ惑う人々や、『ナキア・ザクトゥ』から発艦したサブスタンサーの攻撃を受け、死亡する人々の姿が映し出されていた。
「人質を取られたからと言って、その要求に答えてはならないのです。今、マーズやナキアを止めなければ、更に多くの血が流れるのですよ!」
「ア、アナタが言っているのが、正論だってのは解かる……だけど!」
フラガラッハを握る手に、力を入れるコトが出来ないボク。
「宇宙斗艦長。貴方にクーヴァルヴァリア殺しの汚名を、着せるつもりはありません。この役目は、ボクが負いましょう!」
水色のサブスタンサーが、巨大な黄金の獅子の盾を身構えながら、カーネーション色のサブスタンサーに攻撃を仕掛ける。
やや小型な12機の水色のサブスタンサーも、円陣を敷いて主の機体に続いた。
「ナキア、引け。メリクリウスの野郎、本気だ!」
「ハイ、マーズさま!」
慌てて距離を取ろうとする、センナ・ケリグー。
「この『テオ・フラストゥー』から、簡単に逃げ切れるとでも思いましたか」
水色のサブスタンサーは急加速し、カーネーション色のサブスタンサーの頭部を破壊する。
「きゃああああぁぁぁぁーーーーッ!!?」
悲鳴と共に、墜落するセンナ・ケリグー。
「やってくれたな、メリクリウス!」
「ええ、ですがボクだけじゃありませんよ」
「なんだと!?」
すると、赤いサブスタンサーの背後で、真っ白な閃光が黒い槍先のような形状の艦に直撃していた。
「あ、あの光は、アポロのヘリオス・ブラスターか!!?」
先端を破壊され、真っ白な船体の『クーヴァルヴァリア』から、徐々に離れて行くグラ・ディオス。
「アポロめ……自分の許嫁を、見捨てやがったのか!!」
激高するマーズは、クーリアを握った右腕を前に突き出す。
「見ていろ、アポロ。それに宇宙斗だったな。これがお前たちが助けたかった女の、最期だ!」
マーズの駆るマー・ウォルスの右手が、真っ赤な炎に包まれた。
「ク、クーリアーーーーーッ!!?」
巨人となったボクの手でも、届かないところで、クーリアの美しい身体が炎に焼かれる。
クーヴァルヴァリアとは、始めて火星の衛星フォボスで出会い、事故を起こした採掘プラントから彼女とお付の少女たちの命を救った。
MVSクロノ・カイロスの艦内の街では、面倒見の良いクラス委員長の役割を演じさせられた彼女。
「ど、どうしてボクは……キミを救え……」
アクロポリスの街のテーマパークにある巨大観覧車で、彼女と交わした口付け。
走馬灯のように、彼女との記憶が浮かび上がって来る。
泣く機能を備えていないゼーレシオンに、同化して巨人となっているボク。
でもボクの本当の身体は、泣いていたに違いない。
「な……あの女は、なんです!?」
その時、水色のサブスタンサーに乗ったメリクリウスさんが、叫んだ。
「バカな! 生身の女が、宙に浮かんでいるだとォ!?」
真っ赤なサブスタンサーのマーズも、似たようなセリフを吐く。
「……ク、クーリアッ!?」
ゼーレシオンが捉えたのは、クーリアを抱いて宙に浮かぶ、漆黒のローブを着た女の姿だった。
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