ラノベブログDA王

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一千年間引き篭もり男・第06章・56話

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痛覚を持った巨人

「どうするよ、宇宙斗艦長。これじゃあ、迂闊に手出しができ無ェぜ!」
 仕事として保護対象だった、クーヴァルヴァリア・カルデシア・デルカーダを敵の手の中に握られ、焦るプリズナー。

「その通りだ。少しでも抵抗すれば、このマー・ウォルスが、娘の身体をミンチにしてくれるわ」
 軍神(マーズ)の駆る赤いサブスタンサーの巨大な拳が、今にもクーリアを握り潰そうとしていた。

「止めろ!」
 ゼーレシオンが、動きを止める。

「抵抗はしない。だからクーリアは、殺さないでくれ」
 1000年前はただの高校生だったボクが、人質を取られたときの上手い対処法など思いつくハズも無かった。

「良い心掛けね、宇宙斗艦長。残念だけどアナタには、ここで死んで貰うわ!」
 ナキアさんが操るセンナ・ケリグーの花弁が、ゼーレシオンに向け一斉に襲い掛かって来る。

「グアアアッ!!?」
 花弁のフォトンナイフが、巨人となったボクの手足に突き刺さった。
激痛が、ボクの脳に伝えられる。

 この時ボクは、かつてMVSクロノ・カイロスの格納庫にて、ヴェルダンディから受けたレクチャーのコトを思い出していた。

「なあ、ヴェル」
『どうされましたか、宇宙斗艦長』
 ハンガーの中で立ったまま沈黙する、白い巨人を見上げながら、ボクは優秀なフォログラムに尋ねる。

「今回のイーピゲネイアさんの反乱で、多くの人の命が失われ、無数のアーキテクターが宇宙の塵になってしまった。だけどどうにか反乱を鎮静化できたのも、このゼーレシオンのお陰だ」

『はい。ゼーレシオンはこのMVSクロノ・カイロスに置いても、最強のサブスタンサーです。艦長の意のままに操れるように、チューンナップされているのですよ』

「確かにそうだ。戦っているときは必死過ぎて考えが及ばなかったケド、ゼーレシオンはどうやって動いているんだ?」

『ゼーレシオンは、全身に黒い人工筋肉を持っていて、それを縮めるコトで動いております』
「へ……それだけ?」
『はい』

「筋肉を縮めるって、まるで人間と同じじゃないか?」
 人間も、神経を伝わる微弱な電気信号で、全身の筋肉を縮めるコトによって身体を動かしている。

『サブスタンサーとは、そういった設計思想の元に生み出された兵器です。とくにこのゼーレシオンは、人間の骨格や筋肉をより忠実に再現し生み出されました』

「だからコイツは、ボクの脳が思った通りに動いてくれるのか」
『ええ。ですから艦長の、巨人になった感覚と言うのは、的を射た表現だったと思います』
 そう言われて、ボクは改めて巨人をに上げた。

『ゼーレシオンは、非常に人間に近い兵器です。もう1つ特徴を挙げるなら、この機体は触覚や痛覚を持っているのです』
「そうなのか……確かにフラガラッハを、手で触れている感覚があったよ」

「無論、装甲には痛覚はありませんが、筋肉が剥き出しの部分にダメージが入ると、それは痛みとなって艦長の脳へと伝わるのです』

「わかった。ボクも痛いのはイヤだからね。なるべく攻撃を喰らわないように、気を付けるよ」
 その時のボクは、夏休み前の校長先生の注意喚起ていどの気持ちで、ヴェルの説明を聞いていた。
実際に痛い目に遭うまでは、実感が持てないのがボクの性(さが)なのだろう。

「ガハッ……グウワアッ!!!」
 センナ・ケリグーの花弁が、ゼーレシオンの剥き出しの急所を狙って突き刺さる。
ボクはその度に激痛を感じ、仰け反った。

「ウフフ、どうやらその機体には、痛覚があるみたいね。面白いわ、もっと痛め付けてあげる!」
「……クソ、やられっぱなしなんて、ゴメンだ!」
 ゼーレシオンがフラガラッハで、花弁の1枚を撃破する。

「動いたらどうなるか、忠告はしたよな? ホラ、こうなるんだぜ」
 クーリアが握られた右腕に、僅かな力を込めるマーズ。

「ひぎゃああぁぁぁーーーーーッ!!?」
 ゼーレシオンの長い触角が、少女の悲痛な叫びを捕らえる。

「ク、クーリア、止めろォ!」
「だったら、動くんじゃ無ェ。お前は無抵抗のまま、ナキアの花弁で死んで貰うぜ」

「ハイ。お任せ下さい、マーズさま」
  マー・ウォルスの前に降り立つ、カーネーション色のサブスタンサー。

「さあ、宇宙斗艦長。楽しい拷問は、始まったばかりよ!」
  センナ・ケリグーは、再び花弁を空へと展開する。
フォトンナイフの付いた無数の花弁が、動くコトが許されないゼーレシオンに向って、攻撃を開始した。

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