AIとユミア
「まったく、人騒がせなAIだわね。もう少し、従順なプログラムには出来なかったのかしら?」
カトルとルクスの頭に乗って戻って来た2体の人形に、ユミアが厳しい言葉を投げる。
彼女も、行方をくらましたレアラとピオラの捜索に、情報面から一役買ってくれていた。
「それは、ただのコードにすぎないわ。AIとは、人工知能のコト」
「人間たちが組んだプログラム通りに動く人形が、知能と呼べて?」
「うッ。それはそうだケド……ちょっと、先生もなにか言ってやりなさいよ。街中を、駆けずり周らされたんでしょ!」
AIに対し旗色が悪くなった栗毛の少女が、ボクに対処を押し付ける。
「とにかく、無事に戻って来てくれて何よりだよ。2人は、ボクの授業を受けた生徒だからな」
「なによ、その甘々な態度は。そんなんじゃ、コイツらつけ上がる……」
「心配かけたわね」
「悪かったわ」
レアラとピオラは、オレンジ色に染まった双子の頭を離れて、天空教室へと入って行った。
「人の話を無視して、どこまで生意気なんだか!」
「2人は、そんなに生意気かな?」
「見れば解かるでしょう。ヘンな先生ね」
苦笑いをするボクを、ユミアは膨れっ面で睨んだ。
少し時間は遡(さかのぼ)るが、2人を捜索する為に街中を駆けずり回り、何の成果も得られなかったボクは、1人だけ久慈樹社長の呼び出しを喰らう。
「えっと……一体なんの御用でしょうか?」
ユークリッドの本社ビルにある社長室で、ボクは高級な椅子に座った男に問いかけた。
「今日はウチのAIたちが羽目を外したせいで、キミにも苦労をかけさせてしまったね。今後はこのようなコトが起きないよう、彼女たちにも言って聞かせるつもりだよ」
久慈樹 瑞葉は、社交辞令としての謝罪をする。
「1つ、伺ってもかまいませんか?」
「ン、何なりとどうぞ」
気さくな返事を返す、社長。
「レアラとピオラは、社長の言われていた『壮大なる実験』の正体なのでしょうか?」
「まあ、メインであるコトは否定できないね」
やはり久慈樹社長は、ボクの知らない何かを画策している様に感じた。
「ボクからも、質問して構わないかい?」
「え、ええ、どうぞ」
社長に質問して置いて、社長に聞かれて答えないワケにも行かない。
「2人について、キミの印象を聞きたいんだ」
「2人とは……レアラとピオラのコトですか?」
「ああ。彼女たちは、どんな性格をしている……とかね」
「そ、そうですね」
ボクの印象なんて聞いて、どうするのだろうと思いつつも、素直に答える。
「2人は論理的で知識が豊富で、それに基づいた受け答えをする印象です。気まぐれで、何かに反発するところなんか、どことなくユミアに似ている気がしますね」
「ホウ、中々の慧眼(けいがん)じゃないか」
社長の瞳に、少年のような好奇心が満ちた。
「実は2人の人格形成のモデルは、ユミアなんだ」
「え、そうなんですか!?」
「まさかキミに見抜かれるとは、思いも寄らなかったよ」
期せずして、名推理を披露してしまったボク。
「では、彼女たちの基本プログラムを組んだ人物も、おおよその見当が付くだろう?」
「そ、そう言われましても……って、ま、まさか!?」
ボクの脳裏に、とある人物が思い浮かぶ。
「どうやら解ったみたいだね。ボクの親友にして、ユミアの兄でもある……」
「倉崎 世叛」
それは、簡単な推理だった。
倉崎 世叛は、実の妹である瀬堂 癒魅亜の人格をベースに、AIを組み上げたのだ。
「ねえ、先生。ちゃんと聞いてる!?」
現実に引き戻されたボクの前に、栗毛の少女の訝(いぶか)し気な顔があった。
「あ……えっと、なんだっけ?」
「ホラ、やっぱ聞いてないじゃない!」
「ス、スマン。つい、考え事をだな」
「しょうがないわね。2人がまた、逃げ出さないようにする対策よ」
「た、対策か。そんな都合の良いモノなんて……それはなんだ?」
ユミアが、おなじみのマークが書かれた段ボールを開けている。
「これよ。フィギュア用の机とイス。こんなんで、あのコたちが悔い改めるとも思えないケドね」
「どうかな。案外、キミみたいに上手く行くかもな」
「わ、わたしみたいって、どう言う意味よ?」
「そろそろ授業の開始時間だ。みんな、席に着け」
ボクは天空教室を見渡す。
窓際のテーブルの上には、小さな机とイスに座ったレオラとピオラの姿があった。
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