基本と意表
「ヤレヤレ。プロチーム相手に勝ったかと思えば、高校生チーム相手に苦戦とはね」
不機嫌そうな顔で腕を組む、セルディオス監督。
どうやらボクの出番は、当分周って来ないっぽい。
「まあアイツらも高校生ですからね」
「オーナーから金貰ってる時点で、彼らの肩書きはプロサッカー選手よ。オーナーである倉崎が、この程度の出来で満足してちゃダメね」
ですよね……ボクもお金貰ってサッカーやってるんだ。
まだ1試合しか出てなくて、8万も給料があった。
ボクも試合に出なきゃ、ダメなんだ!
ボクが熱い視線で見つめるグランドでは、2点ビハインドのデッドエンド・ボーイズのボールで、試合が再開される。
「前半の内に、なんとか1点返して置か無ェとな。いくぜ、クロ!」
「言われるまでも無ェぜ、ピンク頭!」
紅華さんがボールを持ち、黒浪さんがディフェンスラインの裏を狙う、いつものパターンだ。
「さっきは斎藤に、カウンターを狙わせる為にあえて通したが、今度はそうは行かないよ」
紅華さんの前に、桃井さんが立ちはだかる。
「ケッ、似た色の髪をしてやがるが、テクニックじゃこっちが上だぜ」
「テクニックは全て、基本の形の上に積み上がる。紅華、キミは隙が多いんだよ」
「あッ、アレは!?」
紅華さんのエラシコが、『ゴムが伸びきって返って来るところを』狙われた。
ボクが紅華さんと対決した時の、対処法と同じだ。
「桃井 駿蔵(もものい しゅんぞう)か。彼も、中々の選手だな。基本に忠実で、ディフェンスもドリブルもパスも全てが、美しい形で貫かれている」
倉崎さんが言った通り、ボランチの基本に忠実に従い、奪ったボールを直ぐに仲邨さんへと渡す。
「ヘヘッ。桃井、やけに素直じゃ無ェか。ンなら、こっから狙ってみるか!」
「仲邨のヤツ、シュートを狙って来たぞ!」
車椅子の倉崎さんが、チームの誰よりも早く反応した。
猫背のミッドフィルダーが放つ、回転をかけたシュート。
そのままデッドエンド・ボーイズのゴール右隅に、決まってしまった。
「オイ、仲邨。テメーが点取って、どうすんだ」
「ギャハハ。悪ィな、岡田。まさかこんな簡単に、決まっちまうとはよ。相手のデブキーパー、想像以上に雑魚だぜ」
嫌な予感がして隣を見ると、セルディオス監督が顔を真っ赤にして怒ってる。
「桃井が基本に忠実な美しい形を持った選手なら、仲邨 叛蒔朗(なかむら はんじろう)は意表を突くワイルドなプレイが特徴の選手だ。同じミッドフィルダーと言えど、正反対のプレイスタイルだな」
ボクも中盤をやるコトが多いケド、個性的ないい選手がたくさん居るんだな。
見習える部分は、ドンドン見習おう。
「まさか、あの距離から撃って来るとは……仲邨 叛蒔朗、ヤツをフリーにしてはダメだ」
「もっと前からプレッシャーをかけるでありますな、雪峰士官!」
雪峰さんと杜都さんが、互いに問題点を確認した。
「ですがそうなれば、彼は岡田にパスを送るでしょう。どちらにせよ、厄介な相手ではありますね」
「感心してる場合かよ、柴芭。4-1にされちまったじゃ無ェか」
「キミが、ボールを奪われて始まったカウンターからですがね」
柴芭さんと紅華さんが、なんだか言い争ってる。
チームの雰囲気、悪くなってない?
「しゃあないヤツらやな。ここは、ワイの出番やで」
今まで沈黙していた、デッドエンド・ボーイズ・第3のドリブラーが、声を上げた。
「なんだ、イソギンチャクか」
「せやから、イソギンチャクちゃう言うてるやろ。この、桃色サンゴ!」
いつものケンカを始める、紅華さんと金刺さん。
「お前のドリブルなら、なんとかなるって言うのかよ?」
「こんなジャガイモ畑みたいなグランドじゃ、スピード出ないぜ?」
「ワイは、お前らとは鍛え方が違とるさかいな」
紅華さんは、今度は黒浪さんでは無く金刺さんにボールを渡す。
「サーファーは、荒れ狂う海の大波(ビッグウェーブ)を、乗り熟(こな)さにゃならんのよ!」
金髪のドレッドヘアを振り乱し、金刺 導誉(かなさし どうよ)がドリブルを開始した。
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