司令官VS将軍・1
「オイオイ。今日の一馬って、ホントに積極的だぜ。倉崎さんに、勝負を申し込んだぞ!?」
黒浪が、黒いビブスを着ながら驚いている。
「いつもは寡黙な御剣隊員が、まるで別人のようでありますな」
杜都も、ベンチに置いてあったビブスの黒い方を選んだ。
「そりゃまあ……そうだろ」
2人の前で紅華が、蒼いビブスを左脚のつま先で拾い上げる。
「は、それって、どう言う意味……」
「お前らは、倉崎さんのチームだな。今は、敵同士だ。ンじゃな」
ピンク色の髪の男は、一馬の元へと歩いて行った。
「紅華隊員は、なにやら感づいているようでありますな?」
「そうかァ。どうせまた、女のコトでも考えてただけじゃね」
蒼いビブスの背番号7を、見送る2人。
「よ、カズマ。エトワールアンフィニーのエースとやらの、お手並み拝見と行こうじゃねェか」
御剣 一馬の肩の上に右ひじを乗せ、もたれ掛かる紅華。
「フッ、やはり気付いていましたか」
「まあな。アイツには、ストーカーされた経験があるんでね」
「え、ストーカー?」
「昔の話だ。それより、倉崎さんと対戦なんて、大きく出たな」
「彼とは、1度戦ってみたかったんですよ。キミと、同じくね」
カズマは、爽やかに微笑む。
「オメーも、喰えないヤツだな。ま、確かに倉崎さんとは、本気でやってみたかったってのはあるぜ」
「それは好都合。流石に1人では、倉崎 世叛に勝てる気がしませんからね」
「だがな。向こうに黒浪、杜都、柴芭、金刺が行っている」
「今ピックアップした人たちが、主力ですか?」
「まあな。こっちにもキャプテンが、居るっちゃぁ居るが……」
紅華が後ろを向くと、そこには無表情の雪峰の姿があった。
「チーム分けは、できたね?」
セルディオス監督が、黒と蒼の2つのカラーに別れたデッドエンド・ボーイズを、河川敷の練習場のコート中央に集める。
「黒チームが、倉崎、黒浪、杜都、柴芭、金刺、龍丸、野洲田、亜紗梨(あさり)、辺見(へみ)ね」
倉崎を中心に、チームの主力級がズラリと居並んだ。
「オイオイ。本職のディフェンス陣まで、全員向こうチームじゃん!」
「問題は無いよ、クレハナ」
「問題、大アリだっつ~の!」
「蒼チームは、一馬、紅華、雪峰、汰依(たい)、蘇禰(そね)、那胡(なこ)、日良居(ひらい)、歌和薙(かわち)、屋城(やしろ)よ」
「こっちのメンバーは、どうなんです?」
「汰依、蘇禰、那胡は、バックアッパーとしては優秀だ。軽い紅白戦形式の練習試合であれば、スタミナもなんとかなるが……」
「彼ら以外は、ディフェンスをやってもらいましょう」
「それしか無ェわな。汰依、蘇禰、那胡、オメーらが中盤で、ボールを奪えるかが鍵になんぜ」
「わ~ってるって、トミン」
「攻撃はトミン、オメーと一馬に任せるわ」
「しっかり点決めて来いや、トミン」
「うっせ。トミン、トミン、言うんじゃね。野郎に呼ばれても、キショいんだよ!」
「なんだ、良いチームじゃないか。沼津を、思い出すな……」
談笑するチームメイトを遠目に見て、カズマはため息を吐く。
「ン、どうした。やっぱ、勝てないってか?」
「イヤ、そうでも無いかもって、思ってさ」
カズマは、倉崎を見る。
黒いビブスを着た選手たちも、ジャリジャリした土のグランドに散らばっていた。
「よし、ポジショニングは決まったね。キーパーは、どっちも置かない方式で行くよ。20分ハーフね」
メタボリックな監督が、ホイッスルを鳴らす。
「まずは様子見だ。こっちが劣勢になんのは覚悟の上だが、裏を狙っていくぜ」
センターサークルも無い練習場の真ん中で、紅華がチョンとボールをカズマに出した。
「そうだね。でも、まずは先制点を取ってからだ!」
ボールを受け取ったカズマが、倉崎に向けてドリブルを開始する。
「オ、オイ……待てよ!?」
仕方なく、追走する紅華。
「フッ、やはり来たか。面白い、受けてやる!」
倉崎が、カズマのボールを奪いに走り出す。
「望むところだ、倉崎。燦然と輝くZe1のフィールドに立つお前と、同学年のこのオレ……。まさか、こんなに早く対戦ができるなんてな!」
小声で呟くと、カズマも真っすぐに倉崎へと挑みかかって行った。
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