藤田 彪季(ふじた たけき)
「オイオイオイオイ、お前らなんで、そんなにやれてるんだよ!?」
ボクたちが言うべき台詞を、ナゼか相手チームの仲邨さんが言った。
ゴールを決めたのは千葉委員長だったが、そこまでボールを繋いだのはさっきの交代で入って来た2人のプレーヤーで、それまでの彼らはボールボーイとしてグランドを取り囲んでいたからだ。
「お前ら2人とも、練習じゃゼンゼン目立ってなかったじゃねェか。とくにチリチリ頭、オメーのやる気の無さは、ウチの部1番だって評判だぞ!」
「仲邨先パイは、けんまい(細かい)のォ。練習はシンドイきに、あんくらい普通じゃか。のォ、千葉。おんしも、そう思うじゃろ?」
「サボったコトを、堂々と当たり前のように言うなよ、彩谷。そこは、先パイが正しい」
「……チャア。おんしも、厳しか~」
根が真面目な委員長は、彩谷さんの主張に同意しなかった。
「オイ、千葉。コイツらの名前は?」
「クセ毛の方が、 彩谷 桜蒔朗(さいたに おうじろう)。背の高い方が、鬼兎 鷹士(きと たかし)。才能はまあ、見ての通りです」
「見ての通りじゃ無ェよ、まったく。コイツらが出てりゃ、桃井が潰れるコトも無かっただろうが!」
「仲邨先パイ、なに言ゥちょるがや。ワシらが最初から出よったら、今頃のう(具合)が悪のうてそこらで転がっちょるきに」
「オイ、お前……鬼兎だったか、訳せ」
「要するに練習不足の我々に、1試合持つ体力があるワケがないと……」
「マジで、堂々と威張ってんじゃ無ェよだな。いいか、せめてこの試合くらいは持たせろ!」
顔を真っ赤にした仲邨さんは、1年生の集団から離れて行った。
「また、1点ビハインドですか。スミマセン、相手を侮ってました」
柴芭さんが言った通り、スコアボードには7-6の数字が並んでいる。
「交代したんは、ボールボーイやってたヤツらや。油断するなっちゅう方が、無茶やで」
「自分は少し、守備寄りにポジショニングするであります」
「ええ、そうして貰えますか。攻撃は、ボクと金刺くん、御剣くんでなんとかしますから」
十何度目だかのホイッスルが鳴り、センターサークルから柴芭さんが左サイドにボールをはたく。
「確かに真ん中には、厄介なヤツらが入りよったが、サイドの弱点はそのまんまや!」
金髪のドレッドヘアを揺らしながら、軽快にライン際をドリブルする金刺さん。
「甘いな……」
「な、なんやてェ!?」
けれどもサーファードリブラーは、あっさりとボールを奪われる。
そう言えば、さっきの交代で入ったのは4人だった。
金刺さんからボールを奪った、相手の右サイドバックも交代していたんだ。
「オレは、彩谷や鬼兎みてェなテクニックは無いが、パワーならオレが上だぜ!」
ボールを奪った選手は、力強いドリブルでライン際を持ちあがる。
「藤田、こっちじゃき!」
彩谷さんが、ボールを貰いに近づいた。
うわあ、マズイ!?
ボクは慌てて、間に入ってパスコースを潰す。
けれども藤田と呼ばれた選手は、パスを出さずにサイドを突き進んだ。
「このまま突破なんて、させるかよ!」
「オレたちで、止めるぜ!」
「まずは、勢いを消してやる!」
さっきの交代で入った、汰依さん、蘇禰さん、那胡さんの3人。
今度は、汰依さんがプレスをかける。
「その程度のプレッシャーで、この藤田 彪季(ふじた たけき)が止められると思うな!」
「ぐわぁ!?」
激しいコンタクトプレイで汰依さんを吹き飛ばし、躊躇なく強引な突破を図る藤田さん。
すでにセンターラインを越え、オーバーラップする右サイドバック。
ペナルティエリアでは、2人の狡猾なストライカーが動き始めていた。
「これ以上、やらせるかよ!」
「ここで、止める!」
蘇禰さん、那胡さんの2枚で、藤田さんの前方の進路を塞ぐ。
「ならば、こうだ」
藤田さんはボールを止めると、そのまま大きく右脚を振りかぶった。
直線的な軌道のボールが、右サイドから放たれる。
「こ、これは、センタリングじゃなく、サイドチェンジでありますか!?」
頭上を通り過ぎるボールを、見送るしか無い杜都さん。
ボールの行き先には、左サイドバックが走り込んでいた。
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