ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第六章・EP030

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斎藤 夜駆朗(さいとう やくろう)

 少し細身で長身のセンターバックは、紅華さんのドリブルコースに立ちはだかった。

「ケッ、オレのドリブルしたいコースを、一早く潰しやがった。なんだか厄介そうなヤツだぜ」
 ピンク色の髪のドリブラーは、仕方なく右に流れて相手の出方を伺う。

「ゲヘヘッ、格好の獲物が来やがったぜ。吹き飛ばしてやる!」
 シンプルな4バックの曖経大名興高校サッカー部の左サイドには、屈強な身体を持った棚香さんが待ち構えていた。

「コ、コイツ……!?」
 ファウルなど気にせず、雑草や小石だらけのデコボコのグランドでも、スライディングタックルを仕掛けて来る棚香さんに、紅華さんはボールを脚で挟んで浮かしてかわす。

「棚香先パイ、ここはもうペナルティエリアの中なんですから、迂闊なタックルは控えて下さい」
 紅華さんの脚から離れたボールを、斎藤さんが足先で絡めて奪い取った。

「フフ、紅華も相手の仲邨のように、ファウルを誘ったんだろうが、棚香の無謀なタックルと斎藤の読みの方が1枚上手だったな」
 そりゃペナルティエリア内で、躊躇なくスライディングタックルを仕掛けて来るなんて思わないよ。

「よし、ビルドアップだ。行くぞ!」
 そのまま背筋を伸ばし、ドリブルで持ち上がる斎藤さん。
号令に呼応し、ラインを上げる4枚のディフェンスライン。

 紅華さんや黒浪さんが、バックラインの後ろに取り残されちゃってる。
今、ボールを奪ってパスを出せたとしても、オフサイドを取られるよね。

「ここは、通しませんよ」
 ボクの替わりに10番のポジションに入った柴芭さんが、斎藤さんの前に立ちはだかった。

「柴芭 師直……お前のコトは、リサーチ済みだ。高度なテクニックを持ち、主だった弱点の無い、厄介な相手だという程度だがな」

「斎藤 夜駆朗(さいとう やくろう)。ボクも、貴方のコトは存じておりましてね。読みも鋭くテクニックも高い、判断力と統率力にも優れた厄介な相手だという程度ですがね」

 グランドの中央で、斎藤さんと柴芭さんの華麗なる一騎打ちが、展開される。

「高度なテクニックを持った者同士の対決、これは見物だな」
 倉崎さんの言葉にも、少なからず好奇心が乗っているのが解った。

「斎藤、いつまでチンタラやってやがる。さっさと、ボールをよこせ!」
 仲邨さんが右に開いてボールを要求しているが、斎藤さんは出す気配はない。

「斎藤、こっちです!」
 桃井さんが、中央から逆の左サイドに展開した。
その時、斎藤さんが動く。

「よし、貰いましたよ!」
 左サイドにパスを出そうと身体を開いたところを、柴芭さんが、脚を出してボールを奪いに行った。

「甘いな、桃井は囮だ」
 更に上の読みをしていた斎藤さんは、ボールを止めて身体の後ろを通し、柴芭さんを一瞬だけ抜く。
クライフターンの後、斎藤さんは前線にボールを蹴り出した。

「し、しまった!?」
「いきなりバックラインの裏に、ボールを放り込まれたであります!」
 ボールは、雪峰さんと杜都さんのボランチを越え、曖経大名興高校の前線に到達する。

「よし、ナイスパスだ、斎藤!」
 そこには、千葉委員長が走り込んでいた。

 ペナルティエリアに、進入する直前の位置。
デッドエンド・ボーイズのバックラインとも距離があり、迂闊に飛び込むコトも出来ない。
シュートをブロックするしか、失点を防ぐチャンスは無いと思えた。

「フッ、やられたな。流石は、岡田だ」
「へッ……岡田!?」
 思わず、声が出るボク。

 グランドを見ると、斎藤さんのロングパスが千葉委員長に到達する、ほんのコンマ何秒というタイミングで、岡田さんがジャンプしてボールに触っていた。

「な……ッ!!?」
 岡田さんのヘディングは、フワリと山なりの弧(シュプール)を描き、海馬コーチの守るゴールの右隅に吸い込まれる。

 3対1……曖経大名興高校サッカー部の3点目が、決まってしまった。

「そ、そんな……」
「文句は無ェよなあ、千葉ァ。これでまた、オレが一歩リードしたぜ」
 今度は千葉委員長の隣を、岡田さんが何か呟きながら通り過ぎて行く。

 試合も、ボクの知らない1年と3年との対決も、悪い方向へと向かおうとしていた。

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