ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

キング・オブ・サッカー・第9章・EP040

戦う意味

 ボクたちデッドエンド・ボーイズの、プロとしての始めての公式リーグ戦。
地域リーグの2部ではあるものの、その試合強度は地元の高校レベルを大きく上回っていた。

 ここでボールを失っちゃ、ダメだ!
もう取り返す体力は、残されて無い……。

 ボクがドリブルするボールを、何年もプロサッカー選手として活動して来たスッラさんが、鋭いタックルで刈り取ろうとしていた。

 ネロさんを振り切るために加速した分、前に勢い付いたボールをコントロールするのは難しい。
パスに、切り替えるしか無い。

 ……頼む、走っていてくれ!

 ボクは、左サイドにパスを出した。
直後にスッラさんのタックルを受け、転んでしまう。

 左サイドを、確認できたワケじゃない。
でも、笛は鳴らなかった。
もしかしたら……。

 ボールは、スッラさんのタックルで奪われる前に、左サイドに転がった。
そこに待ち受ける、パッションピンクの髪のドリブラー。

「まったく……オメーは、まだ諦めて無ェのかよ」
 少しインサイドに入って、ボールを受ける紅華 遠光(くれはな とおみつ)。

「やらせはせんぞ!」
 けれどもフリーで受けれたワケでは無く、右サイドバックのハリアさんにマークに付かれていた。

「ジャマなんだよ!」
 華麗なダブルタッチで、ハリアさんを置き去りにする紅華さん。
左サイドには開かず、中央に切れ込むコースでドリブルを開始した。

「そう言や、お前がオレをスカウトしに来たときも、やたらと諦めが悪かったよな……」
 過去を回想する、紅華さん。

 デッドエンド・ボーイズのみんなは、学年は同じでも高校はほぼバラバラだった。
ボクは倉崎さんの指示で、紅華さんをスカウトに行く。
下校時刻に待ち構えていて、紅華さんの乗ったバスに乗り込んで、跡を追ったんだ。

「無口なストーカーか。なんだかもう、懐かしいぜ」
 軽快なドリブルでボールを運んで、ビルドアップする紅華さん。

「紅華……この時間帯でも、あんなドリブルができるね」
 ベンチで、セルディオス監督が感心する。

「アイツの場合、完全に気分屋ですからね。良くも悪くも、ドリブラー気質と言うか」
「それは認めるよ、倉崎。でも、もう試合は決まっているのに、ナゼ?」

「一馬が、頑張ったからでしょうね。紅華は、最初に一馬がスカウトしてきた選手ですから」
 倉崎さんは、センターサークル付近で倒れているボクを見ていた。

「ホラ。一馬のヤツも、起き上がって攻撃に加わろうとしてます」
「それが解らないね。日本人、もう頑張っても無駄なのに、頑張るよ。どうせ頑張るんなら、後半の頭とかもっと前に頑張るべきだったのに」

 日系ブラジル人監督が、疑問を呈(てい)す。

「わたしも、ダーリンの気持ちが解かる気がします」
 新人マネージャーが言った。

「ウチは、歴史のある剣道の道場なんですよ。わたしにはお兄ちゃんが居て、子供の頃から2人とも竹刀を握ってました。わたしなんて直ぐに諦めちゃうんですが、お兄ちゃんは跡取りだから、大人を相手に負けても必死に頑張るんです」

 ボクの高校のサッカー部に所属する、千葉 蹴策を兄に持つ、千葉 沙鳴ちゃんが言った。

「でも、もうとっくに試合は決まってるよ」
 メタボ監督の視線が、スコアボードに向く。
そこには、1ー9の絶望的なスコアが刻まれていた。

「確かに、ウチにとっては初の黒星であり、プロとして圧倒的な力の差を見せつけられた試合です。でも、1点を取るコトに意味があるんですよ」
「それは、アマチュア的な発想ね」

「わたしは、そうは思いません」
 キッパリと断言する、沙鳴ちゃん。

「上手く言えないケド、ダーリンたちはもっと未来のために、戦っているんですよ」

 新人マネージャーの言葉に、倉崎さんはたた微笑みを浮かべて、ピッチに視線を向けた。

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