天空の魔法ラムシ・セ・ウォリア
「海底の国の王よ。なぜ貴方は、サタナトスと言う賊の軍門に降ったのです?」
王妃パルシィ・パエトリアは、大魔王ダグ・ア・ウォン が巻き起こした暴風をモノともせず、凛としたエメラルド色の瞳を向け問いただす。
「海皇ダグ・ア・ウォンが、どうして少年などの下で働くのですか?」
美しい金髪が風に揺れ、純白のドレスも大きくはためいていた。
長い首に架けられた、様々な宝石が散りばめられた黄金のネックレスも、舞い踊っている。
「答える義理は無いな、クレ・ア島の女王よ」
海皇は、三又の剣(トラシュ・クリューザー)を王妃に向けた。
「我の前に跪(ひざまず)かぬのであれば、討ち砕くまでよ」
今度は3つの刃の内、黄色の刃が輝く。
王妃を取り囲むように、無数の鋭利な針(ニードル)が、空中に出現した。
「ア、アレは、黄玉の魔王の槍の能力だ!」
「じゃが、針の数が段違いじゃ。ペル・シアとやらの、比では無いぞ!」
闘技場の空中を旋回していた、舞人とルーシェリアが驚愕(きょうがく)する。
「パエトリア王妃。ここは、わたしが……」
黄金の鎧を纏(まと)った1人の男が、王妃の前に歩み出た。
「ミノ・テリオス将軍だ。でも将軍は、重傷を負って戦える状態じゃ……」
「ご主人さまにはアレが、傷を負った男の顔に見えるのか?」
「え?」
ルーシェリアに言われて、舞人は雷光の3将が筆頭の状態を確認する。
ミノ・テリオス将軍には、魔王ケイオス・ブラッドとの戦いによる傷や疲弊すらも見られず、気力に満ち溢れていた。
「フッ、死に損ないが。我が槍の能力を受け、串刺しとなるがイイ!」
トラシュ・クリューザーが、黄色く輝く。
同時に無数の針が、ミノ・テリオスと王妃に目掛け、1斉に飛んだ。
「ジェイ・ナーズ!!」
ミノ・テリオス将軍が、自らの剣を闘技場の床に突き立てる。
鏡のような剣身に、無数の針が映った。
「なにィ、我の針が消えただと!?」
「消えたのでは無い。自分の周りを、よく見てみろ」
黄金の鎧の将軍が、言い放つ。
「バ、バカなッ!?」
大魔王ダグ・ア・ウォンの周囲に、無数の小さな鏡が出現し、鏡の中から鋭利な針が現れた。
「自らの針を、その身に喰らうがイイ!」
トラシュ・クリューザーが、破黄槍バス・ラスの能力を取り込んで生み出した針が、大魔王を襲う。
「グハッ!」
多くの針は、大魔王の蒼いウロコの固さに跳ね返されたモノの、何本かはその身を貫いていた。
「アレだけの針の攻撃を喰らって、大したダメージも通らんとは……」
ミノ・テリオス将軍は、再び剣を構え臨戦態勢に入る。
「小癪(こしゃく)なマネをッ!」
大魔王が、身体の筋肉に気合を入れると、突き刺さった全ての針が弾け飛んだ。
「2人とも、スゴい戦いだ。でもミノ・テリオス将軍は、どうして傷が癒(い)えているんだ?」
「王妃の、回復魔法じゃよ」
ルーシェリアは抱えていた舞人を、水没していない闘技場の観客席に降ろした。
「王妃サマは、回復魔法が使えるのか?」
「恐らくは、もっと高度な魔法も操れるのじゃろうて。アレを、見るのじゃ」
ルーシェリアが、紅色の視線で舞人を誘導する。
ミノ・テリオス将軍の背後で、パルシィ・パエトリアは目を閉じ、何やら口ずさんでいた。
「呪文は、完成致しました。貴方は、鏡の中へ逃げて下さい」
「ハッ!」
王妃を残し、鏡に消えるミノ・テリオス将軍。
「な、なんだと!?」
驚愕の表情を浮かべる、深海の支配者たる大魔王。
「その身に味わいなさい。天空の魔法、『ラムシ・セ・ウォリア』!!」
王妃の持つ杖が、真っ白に光り輝いた。
「マズい……この光はッ!?」
大魔王ダグ・ア・ウォンは、4本の腕をクロスに組んで防御態勢を取る。
「ご主人サマも、伏せるのじゃ!」
「ウ、ウン!」
舞人は、伏せたルーシェリアの上に覆いかぶさった。
「グッ……グオオオオォォ―――――――ッ!!?」
白き閃光が、大魔王に向け炸裂する。
閃光は、闘技場の観客席を大きくえぐり取り、天に向かって登って行った。
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