巻き起こされた地震
「ボクの剣は、かの赤毛の英雄さえも魔王へと変えたんだ」
サタナトスの魔晶剣プート・サタナティスに、紫色の妖気が纏(まと)わり始めた。
複雑な波紋が金色の輝きを放ち、柄頭にはクリアなアメジストが輝いている。
「さあ……キミも魔王と化して、我が軍門に降るとイイ」
背中に黒い天使の6枚羽根を伸ばした、サタナトス。
時空の裂け目を身体に刻まれ、身動きの取れないミノ・ダウルス大将軍に向って飛んだ。
「……アイツ、魔族だったのか」
「違うな。恐らく、人間と魔族の子なのだろう」
ティ・ゼーウスの見解に対し、含蓄(がんちく)を見せるダエィ・ダルス。
「グヌォォォ……!」
ミノ・ダウルス大将軍は、旋回して振り下ろされた大戦斧(アステリオス)に、気合いを込めた。
地下闘技場の地面がひび割れ、ティ・ゼーウスのハートブレイカーによる臓物(ぞうもつ)の結界が、引き千切られる。
地面が激しく揺れ、振動が辺りに拡散した。
「な、なんてヤツだ。オレの結界を、完全な力技で引っぺがしやがった」
「見ろ、ティ・ゼーウスよ。大将軍の身体に刻まれた次元の裂け目が、徐々にではあるが小さくなっておるぞ。このままでは……」
「早くしねェと、こっちがやられちまう!」
「止めを刺すのだ、サタナトスよ!」
揺れに膝(ひざ)を折りながらも、サタナトスに止めを刺すよう促(うなが)す2人。
星砕き(アステリオス)が生み出した波動は、地上の闘技場にまで伝わっていた。
「オワァ、地震かァ!?」
「まさかとは思うが、この地震ってのは……」
「大将軍の戦斧が、引き起こしたモノらしいな……」
地上の闘技場で、地下闘技場の様子を観戦していた3人の船長たちも、驚きを隠せないでいる。
「大したモノじゃ。流石は、大将軍と言ったところか」
地上の闘技場で、ミノ・テロぺ将軍との決闘を中断した、ルーシェリアが感心していた。
「呑気なコト、言ってる場合じゃないよ。鏡の像が途切れたケド、サタナトスの剣が覚醒しようとしているんだ。もしミノ・ダウルス大将軍まで、魔王にされちゃったら……」
ミノ・テリオス将軍に同行して闘技場にやって来ていた、舞人が苦言を呈(くげん)す。
「落ち着くのじゃ、ご主人サマよ。ところで、ミノ・テリオス将軍」
「どうした、ミノ・アステ将軍」
ミノ・テリオス将軍は、ルーシェリアをミノ・アステの名で呼んだ。
「お主は鏡で、ご主人サマと共にこの闘技場へとやって来た。お主の剣が生み出す鏡で、地下闘技場へは行けんのか?」
「それが出来れば、とっくにそうしている。我が剣ジェイ・ナーズは、一定の範囲に鏡があれば移動できるし、近距離なら鏡を生み出すコトも出来る。だが、次元迷宮(ラビ・リンス)の深層にある地下闘技場は、時空が複雑に入り組み過ぎている」
「つまり、地下闘技場には鏡が存在し、位置的には一定の範囲内なのじゃな?」
「賢(さか)しいな。確かに地下闘技場には、何枚かの鏡が存在しているのは認めよう」
雷光の3将の筆頭は、冷静で鋭利な口調で言った。
「クソッ! ここで、見守っているしか出来ないのか!」
「焦るで無いぞ、ご主人サマよ。ヤツの剣が復活するのであれば、ご主人サマのジェネティキャリパーも、復活するやも知れん」
「ボクの、ジェネティキャリパーが?」
背中の剣を見る、舞人。
「何かの、きっかけさえあれば……」
言いかけたルーシェリアが、異変を感じる。
「なんだ、この気配は?」
「ミノ・テロぺよ。上だ」
ミノ・テリオス将軍が、上空に視線をやった。
「ア、アレは!?」
驚く、蒼き髪の勇者。
「見ろよ、ミノ・テリオス。奇妙な化け物の群れが、空を飛んでいるぞ」
「ああ、ミノ・テロぺ。油断するな、かなりの気配だ」
魔物の群れは、雷光の3将が集う闘技場に、次々に飛来する。
その首魁(しゅかい)と思(おぼ)しき魔物は、蒼いウロコを持ち、隆々とした筋肉で覆われた4本の腕を持っていた。
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