3センターバックの攻防
デッドエンド・ボーイズの3センターバックは、右から野洲田(やすだ)さん、龍丸さん、亜紗梨さんと並ぶ。
「アイツは、ボール奪取能力は高いが、ドリブルはそこまで上手くねェ。オレが、止めてやるぜ」
右センターバックの野洲田さんが、シュートコースを消しながら、ボールを持つネロさんにプレッシャーをかけた。
「そんなコトは、自分が1番知ってんだよ。ホラ、スッラさん!」
ネロさんはドリブルを止め、素早く右側にボールを出す。
「ナイスだ、ネロ。ここだ……」
相方のボランチであるスッラさんが、出されたボールに走り込んだ。
「簡単に、シュートは撃たせない」
けれどもスッラさんには、雪峰さんがマークに付く。
「イヤ、今度はオレの方が早い!」
雪峰さんと競り合いながらも、スッラさんは強引にシュートを撃った。
「わ、わわッ!」
慌てる、メタボキーパー。
高校時代に全国を制覇した面影は、もはやどこにも無い感じだ。
「まったく、世話の焼ける」
ディフェンス陣を仕切る、龍丸さんがヘディングでシュートコースを変える。
ボールはタッチラインを割り、なんとかコーナーに逃れた。
「ス、スマンな、龍丸」
教え子に、申しワケ無さそうに謝る海馬コーチ。
「少しは、節制するんだな」
「まずはそのハチ切れそうなお腹を、どうにかしないとね」
亜紗梨さんも寄ってきて、苦言を呈(てい)した。
「オイ、まだコーナーだ。アイツら、もう始めてるぞ!」
ペナルティエリアに戻って来た野洲田(やすだ)さんが、注意する。
相手の攻撃的MFが素早くコーナーフラッグに立ち、ハリアさんとショートコーナーを行った。
グラウンダーの低く鋭いボールが、ボクたちから見て左のサイドから入って来る。
「オレたちに高さがあると見て、低いボールで来たか」
「ここは、ボクが出るよ」
3人の中では小柄な、亜紗梨さんがボールに行った。
「チッ、高いボールをよこせっての!」
バルガさんが苛立つ前で、ボールは亜紗梨さんにカットされ、左サイドにクリアされる。
「ナイスだ、亜紗梨。お前、確かに成長してんな!」
ボールは、クリアと言うよりパスに近く、左サイドの紅華さんが受け取った。
亜紗梨さんは、センターバックだけでなく、左のサイドバックやサイドハーフもこなせる。
パスの精度も高いし、頭のイイプレーヤーだ。
「無口で目立たなかったお前が、良いパス寄こすじゃねェか。オレも……少しは見習うとするぜ」
海馬コーチの元で、サッカーをやっていった頃のチームメイトに触発される紅華さん。
相変わらずの華麗なドリブルで、左サイドを駆け上がって行く。
「マズい、戻らないと!」
コーナーに関わっていたハリアさんが、慌てて帰陣しようとするも、紅華さんとはかなりの距離が開いていた。
「ウチも、優れた素質を持った選手が揃っているが、攻撃的MFのポジションは課題だな……」
MIEの残った3枚の最終スラインを、綺麗に横1線に統率しながら、カイザさんが呟(つぶや)く。
右の大型センターバックの、本坪 捲那(ほんぺい マグナ)さん。
真ん中でリベロの、樹莉 海斬(じゅり カイザ)さん。
左のセンターの、煤季 鞍棲(すすき クラス)さんと並んでいた。
「いくらラインを、統率したってよ。パスを出さなきゃ、オフサイドにはならないぜ」
左サイドから、ペナルティエリアに向け斬り込む、紅華さん。
「ボ、ボクが、行くよ」
マグナさんが前に出て、紅華さんに当たる。
「大きい割りに、足元も器用みてェだが、相手が悪かったな!」
シザースとエラシコを繰り返す、紅華さん。
タイミングを見て、マグナさんの股の間にボールを通して抜き去った。
「かかったな……」
けれども、そのボールをカイザさんが奪い取る。
「コ、コイツら、ワザと狙ったな!」
「当然だ。ドリブラーに対する対処など、とうに出来ている」
MIEのサポーターの声援を背に受けながら、カイザさんはボールを持ち上がって行った。
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