飛び交う(クロス)カウンター
雪峰キャプテンの、カットからの見事な判断で、ボールを受け取ったボク。
バックラインを統率するカイザさんが上がって、左サイドバックのトラヤさんも上がり気味だ。
MIEの、残るディフェンスラインは3枚。
ここは、もう1度カウンターを狙うしかない。
ボクは、直ぐに反転してMIEのゴールに向けドリブルを開始した。
「マズいな。だがウチのディフェンスは、簡単では無いぞ!」
カイザさんが、後ろから迫って来る気配がする。
左サイドの紅華さんには、右サイドバックのハリアさんが付いたままだ。
トラヤさんが上がってるから、右でフリーの黒浪さんを使うか?
ドライブシュートで、このまま狙うって手もあるケド……どうする。
ドリブルで酸素を奪われ続ける脳ミソで、必至に考える。
ペナルティエリアには、背の高いセンターバックが2人。
1人は、金刺さんに張り付いている。
ボクが対峙(マッチアップ)するのは、確か本坪 捲那(ほんぺい マグナ)って名前の人だ。
ロランさんに間違われて静岡まで行っちゃったバスの中で、ヒマを持て余していたボク。
SHIZUOKAやMIEら、日高グループが参入させたチームのホームページを、スマホで見ていた。
だから1通り、選手情報も頭に入っている。
マグナさん……。
カイザさんと並んで、5バックの真ん中を張っている。
MIEにあっては、これまで目だった動きはして無かったケド……勝負してみるか。
ボクは、ドリブルからでは精度が出るか解らないドライブシュートを諦め、そのままペナルティエリアに侵入する。
「あ……」
マグナさんが、少し不安そうな顔をした。
「大丈夫だ、マグナ。お前なら、必ずやれる!」
やはり後ろに追って来ていた、カイザさんの声が聞こえる。
「そ、そうだね。今のボクなら……ここは、通さない!」
マグナさんの、顔つきが変わった。
ペナルティエリア内にも関わらず、果敢にボクとの距離を詰めて来る。
しまった、予想外な反応だ。
相手の動きの予測が外れ、1瞬パニクるボク。
でも、股下が開いている!
センターバックらしく、大柄なマグナさん。
確かホームページだと、192センチと書いてあった。
ボクは迷わず、股下を狙ってシュートを放つ。
シュートはボクから見て、左サイドのゴール隅に向かって飛んだ。
「それは、読めてる」
軸足とは逆の浮いた方の右脚を内側に曲げ、シュートを弾くマグナさん。
この人、大きいケド足元も器用だ。
こぼれ球(ルーズボール)が、右サイドに転がった。
「一馬、そのままそこに居ろ。オレさまが狙うから、こぼれ球に反応するんだ!」
俊足の黒浪さんがボールに飛び出し、再び角度のないところからシュートを放つ。
「オレが、こぼすとでも思ったか!」
けれども黒浪さんのシュートは、難なくアグスさんにキャッチされてしまった。
「アグス、スッラだ」
短い指示を出す、カイザさん。
「おう!」
アグスさんは、素早くパントキックを打ち上げる。
ボールはグングンと伸び、センターサークル付近に落ちようとしていた。
「御剣 一馬……ずいぶんと恥をかかせてくれたな。だが、お前のオレへのマークは外れた」
「やらせるか!」
スッラさんと雪峰さん、2人のボランチが落ちるボールを競り合う。
「今度は、ウチが攻めさせて貰うぞ!」
空中戦は、長身のスッラさんに軍配が上がった。
ポストプレイのように、ヘディングでボールを落とすスッラさん。
「ナイスっす、スッラさん」
ボールは相方のネロさんが受け取り、そのままドリブルで持ち上がった。
「オオオ、またカウンターかよ。いいか、お前ら。シュートコースを、塞ぐんだ!」
メタボな海馬コーチが、あたふたと指示を出す。
「わ~ってるよ。ウチはシュートを撃たせたら、お終いだからな」
「野洲田(やすだ)は、シュートコースを消せ。亜紗梨(あさり)は、そのままバルガをマークだ!」
「了解だよ、龍丸」
龍丸さんを中心に声を出し、野洲田さん、亜紗梨さんのセンターバックトリオが動き出した。
前へ | 目次 | 次へ |