カイザの檄(げき)
ボクの直接フリーキックで、プロとしての最初の得点を決めたデッドエンド・ボーイズ。
喜びを爆発させるボクたちとは対照的に、フルミネスパーダMIEの選手たちは落ち込んでいた。
「チッ!」
アグスさんが悔しそうに、ゴールラインを割ったボールを大きく蹴り出す。
「まさか開幕戦から、オレたちが失点を喫(きっ)してしまうとはな……」
MIEのキャプテンであるカイザさんが、アグスさんを落ち着かせようと言った。
「すまない、カイザさん。直接狙って来るとは思わず、反応が遅れちまった。1年間、無失点で行くって、カイザさんの計画が……」
「お前のせいじゃないさ、アグス。相手は、フィールドプレイヤー全員が高校生……そこに油断があった。1度フィールドに立てば、年齢なんて関係ないのにな」
アグスさんの肩を、ポンと叩くカイザさん。
「1年間の無失点記録なんてモノ自体が、オレの奢(おご)りだったのさ。気にするな」
そのままセンターサークルの方へと、近づいて行く。
「まったく……1番悔しがっているのは、アナタじゃないですか」
カイザさんの背中を見送る、アグスさん。
「チキショウ! 高校生が、あの距離からドライブシュートを決めるなんて、マンガかなにかかよ!」
センターサークル付近では、フリーキックを与えてしまった、ネロさんが荒ぶっていた。
「ネロ。相手が高校生だとかは、今から頭から捨てろ」
「カ、カイザさん……で、ですが」
「年齢で言えば、お前だって19歳だし、ウチのキーパーはまだ高校生だ」
「そりゃ、そうですが……1年間クリーンシート(0失点)で行くってウチの目標が、あの高校生に潰されちまったんですよ」
「御剣……一馬か」
得点者であるボクの名前が表示された、電光掲示板を見上げるカイザさん。
「面白い動きをする、選手(プレーヤー)だとは思っていた。ボールの出どころであるスッラを抑えに行った判断も、悪くはない」
「た、大したコト、無いェっすよ。ドライブシュートだって、まぐれだろうし」
「アレは流石にまぐれだろうが、油断するな。彼は、デッドエンド・ボーイズの中心プレーヤーだ」
「だ、だったら、オレをマンマークに付けてください。アイツを、押さえてみせますよ!」
必死に訴える、ネロさん。
「オイ、ネロ。忘れてねェか。お前、1枚カード貰ってんだぞ」
ボランチでコンビを組む、スッラさんが言った。
「わかってますよ。ノーファールで、アイツを押さえればイイんでしょ?」
「お前、簡単に言うが……」
「アイツが決めた、ドライブシュートよりかは簡単でしょう。アイツがエースってんなら、エースキラーの実力を見せてやりますって」
「お前は、言い出したら聞かないヤツだからな」
「わかった。そこまで言うのであれば、やって見せろ。ただし、退場などすれば……」
「そん時は、覚悟出来てます。オレだって、せっかく掴みかけたレギュラーの座を、奪われたくは無いっスからね」
「この試合、これ以上点をやるつもりは無い。ピッチに立った以上は、相手もプロだ。油断せず、気を引き締めて行くぞ!」
「了解です、カイザさん」
「オレは、アイツに仕事をさせ無ェ!」
カイザさんの檄(げき)に、気合を入れるスッラさんとネロさん。
センターサークルでのミーティングを終えたカイザさんは、最終ラインへと帰って行った。
再び、試合再開のホイッスルが鳴り響く。
今度は、相手ボールからの試合再開だ。
「オラ、行くぜ」
ネロさんがボールを蹴り出し、スッラさんが左サイドへと展開する。
「ナイスパスだ、スッラ」
ボールを受け取ったトラヤさんが、ボクたちの右サイドを攻め上がって来た。
「やっぱオレのクロスは、まだまだ精度が出ねェ。中央が分厚いのは承知だが、フォワード時代みたいに、いっちょ攻め込んでみるか」
トラヤさんは、ライン際から内側へとドリブルコースを変え、ペナルティエリアへと進入しする。
「シュートは、撃たせねェぜ!」
すかさず、右センターバックの野洲田(やすだ)さんが飛び出して、間合いを詰めた。
「どうだか……なッ!」
フォワードからコンバートされた左サイドバックは、右に流れながら右脚で巻いたシュートを放つ。
シュートは、ボクたちのゴールの左上隅に向って、飛んだ。
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