トラヤとハリア
ボクに向かって、落下して来るボール。
前線ではランスさんが、ウェーブの動き出しをしていたし、イヴァンさんは相変わらず堂々とオフサイドポジションに立っていた。
「クッソ、誘いやがったな!」
後ろから、ネロさんの声が聞こえる。
フリーにしてしまったボクに、チャージかスライディングタックルを仕掛けるつもりだ。
「どう出てくる、ロラン」
目の前ではスッラさんが、微動だにせず待ち構えている。
ボランチとして、あらゆるアクションに対応するためだ。
トラップしてる時間は、無い。
つまり、ダイレクトプレイを要求されているんだ。
ここは、一か八か狙うしかない!!
心の中で、叫ぶボク。
ボクは落ちて来るボールを、ダイレクトボレーでシュートした。
けれども、そんなに簡単にミートできるモノでも無い。
ボールは、あらぬ方向へと飛んで行く。
「フッ、その程度か。期待外れか、もしくは本調子で無いのか……」
スッラさんは、そう呟くとボールの飛んだ左サイドに向けて、ポジショニングを修正した。
そのどちらでも無い、ロラン本人じゃ無いんだケド、なんか悔しい。
「ロラン、中央は任せたぞ!」
ボクの正体を知っているオリビさんが、ボールを追って左サイドに張り出した。
ボールは、相手の右サイドバックが先に確保している。
「なんや、お前。大したコトあらへんな。こりゃあ、エトワールアインフィニーSHIZUOKAも、大したコト無いんちゃうか?」
ボクに話しかけて来たのは、MIEの左サイドバックだった。
虎刈りのような奇抜な髪型で、眉毛はやけに短い。
背はボクと大して変わらなかったが、何より腕も脚も丸太みたいに太かった。
「ワイは、錬葉 寅哉(ねるば トラヤ)や。こんでも昔は、こってこてのフォワードやっとったんやが、このチームに来てサイドバックにコンバートされてな。慣れんポジションで、難儀してんねや」
試合中にも関わらず、敵のボクに話しかけて来るトラヤさん。
「オイ、トラヤ。試合中だぞ」
同僚のネロさんが、嫌そうな顔で注意する。
「構ヘンやろ。ハリアが、ボールを失うワケが無いさかいな」
「お前、ハリアとは犬猿の仲だったんじゃねェのかよ?」
「アイツとは中学以来の犬猿の仲やけど、サッカーの試合となりゃあ話は別や」
ハリアとは、相手の右サイドバックのコトだろう。
オリビさんを相手に、ボールをキープし続けているし、パスを出す隙を伺っているようにも見えた。
「因みに、ハリアちゅうんは、ウチの右サイドバックでな。本名は、吹雪 梁吾(ふぶき ハリア)。お前んトコのテクニシャンと、やり合ってるヤツや」
やっぱ、そうなんだ。
感心していると、ハリアさんがオリビさんをかわして、ロングボールを中央へと入れた。
違う、中央じゃない。
ウチの右サイドだ!?
ボールは、ボクの頭上を越え逆サイドまで達する。
でも、バルガさんはまだ、中央に残って……アレ!?
ボールをトラップしたのは、さっきまで話していたトラヤさんだった。
マ、マズい……完全に、フリーにしちゃった!
慌てて戻る、ボク。
けれども、攻撃参加してくれたリベロのヴィラールさんは既に帰陣していたし、アルマさんはバルガさんを密着マークしてくれていた。
さ、流石に、戦術理解度が高い。
ボクは、どこを埋めれば良いんだ!?
混乱しているウチにも、試合は素早く展開する。
ハリアさんは力強いドリブルで、エトワールアンフィニーの右サイドから中央へとカットインする。
サイドバックでありながら、サイドハーフに近い動きをするトラヤさん。
「このまま、シュートや!」
ペナルティエリアに入る、僅か手前。
ヴァンドームさんが寄せる寸前で、トラヤさんは強烈なシュートを放った。
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