模擬テスト
クララが言ったコトは、最もな理屈だった。
宇宙に行きたい、弁護士になりたい……いずれは、叶う可能性もある夢だろう。
けれどもそこに、時間の制約が加われば話は替わり、途端に不可能なコトが増えるのだ。
「で、でもさ。テストで良い点取るだけなんだから、出来なくはないんじゃね?」
「今までの、準備次第だと思うわ。レノン、貴女にはテストで良い点を取る自信があるの?」
クララの言葉の針が、激しく相手を襲う。
「そ、そりゃぜんぜん無いケド、今からでも頑張ればもしかして……なあ、アリス」
「ええ、そこで振るですか!?」
やはり、レノンもアリスも自信は無いらしい。
「クララ、貴女はどうなの。もしかして、テストをボイコットするつもりかしら?」
弁護士を志すライアが、マスコミを目指す少女に再び問い掛けた。
「そんなコトは、しないわ。マスコミは、ニュースを作らない。それを護らないマスコミも多く居るケド、わたしはニュースを捏造したりしない。テストは、ちゃんと受けるわよ」
クララは、クールな顔でライアを見返す。
確かに彼女は、ライアやメリー、ユミアに次いで学力の高い生徒だった。
テストを実施したとしても、この4人は合格しそうだと考えている。
「な、なあ、先生」
「そのテストって、ウチらも入っとるんか?」
義務教育があった頃であれば、小学6年生の年代の、ミアとリアがボクに問いかけて来た。
「それについてはボクも疑問に思ったから、久慈樹社長に聞いてみたよ。天空教室の一員になったのであれば、当然テストを受けて貰うとの答えだった」
「マジかあ、先生。こう見えてもな!」
「ウチら、勉強は大の苦手やで!」
「アンタら、そこ威張るとこちゃうで」
2人の姉であるシアが、2人のホッペを引っ張りながらツッコミを入れる。
「……てコトは、とうぜんわたし達も含まれますよね?」
アステが、言った。
「アステはともかく、成績悪い子も居るよね」
「そ、そうですね、タリアお姉さま。今から、なんとかなるでしょうか?」
「どうだろうな。お前たち、勉強は身に付いているか?」
「ゴ、ゴメン。アチシ、勉強ぜんぶ得意じゃな~い!」
「わ、わたしだってだよ」
「ボ、ボクも、数学とか苦手かな」
恩人であるタリアを慕う、少年犯罪の被害者である7人の少女たち。
彼女たちも、ストーカー被害からの保護や、マスコミの目を避けるために天空教室に加わった。
けれども7人の中にも、勉強が苦手な子たちが居る。
「こうして話していても、問題の解決にはならない。だから今日、模擬テストを行うんだ」
ボクは、2日間あった臨時休日の間に、5科目それぞれのテストを作っていた。
「模擬テストと行っても、先生にも本番のテスト内容は、伝えられていないのでは無くて?」
クララは、ボクも気付いていた弱点を的確に突いて来る。
「ユークリッドの授業動画をベースに、今の時期までに覚えてなきゃならない部分をピックアップして、作ったつもりだ。一定の、指標にはなるだろう」
「逆に言えば、一定の指標にしかならないのよね」
「それでも、やらないよりは遥かにいいわ。みんなの学力が、ある程度計れるのだから。どこが苦手かわかれば、対策のしようがあるじゃない!」
「そうね。でも、絶望するだけかも知れないわ」
クララはそう言い残すと、ユミアの前から立ち去った。
「それじゃあ、テストを配るぞ。まずは国語だ。他の先生にも、今日は許可を取ってテストをお願いしているから、みんなしっかりテストを受けるように」
ボクは昔ながらの紙のテスト用紙を、天空教室の最前列の生徒に配る。
前列から徐々に、後ろの席へと行き渡るテスト用紙。
「では、模擬テストを始めるぞ。みんな、スマホは机の中に仕舞え」
テストが始まると同時に、普段はかしましい声が鳴り止まない教室が、静かになる。
「今のお前たちの学力が、知りたいんだ。アイドルの仕事との掛け持ちは大変だったろうが、頑張って全力を出してくれ」
それはただの、ボクの淡い願望に過ぎなかった。
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