アルセーヌ・ド・ヴァンドーム
屈強な身体を大きく揺らしながら、コーナーポストまで走って行くイヴァンさん。
コーナーフラッグを掴んで、征服者のようなポーズを決める。
「身体能力しか取り柄の無い男に決められるとは、何たる失態だ」
ベンチで、苦虫を嚙み潰す壬帝オーナー。
「よし、まずはウチが先制だ。ナイスゴール、イヴァンさん」
「おお、ロラン。ベンチを見てみろよ、壬帝オーナーのあの顔。悔しくて、たまんなさそうだぜ」
豪快に笑う、イヴァンさん。
してやったりと言った顔で、自陣に引き上げて来る。
「一馬も、ナイスシュートだった。あれで、イヴァンさんが押し込めたワケだからな」
ロランさんは、ボクのプレーも褒めてくれた。
やはり、カリスマってヤツがある気がする。
「ロラン、まだ1点取っただけだ。油断はできないぞ」
「わかってるさ、オリビ。相手はランスさんを使って来るか、あるいは……」
「最終ラインから、リベロたちが前線に出て来るかだな」
ロランさんとオリビさんは、すでに相手の次のプレーを予測していた。
『ピーーーッ!』
再びホイッスルが鳴らされ、試合が再開する。
一旦ボールをアルマさんに預ける、ランスさん。
そのまま右サイドに流れて、オフサイドラインを気にしながら、後ろからのボールを待っていた。
「さて、どう動くかな。ボクには、ロランのようなドリブルで突破する能力はない」
ボールを受けたアルマさんも、さらに後ろへとボールを戻す。
「ずいぶんと消極的なプレーじゃないか、アルマ」
そこには、アルセーヌ・ド・ヴァンドームさんが待っていた。
「こっちはレギュラークラスが、ディフェンス陣に集中している」
なにやら独り言を言っている、ヴァンドームさん。
ヴァンドームさんは、フランスリーグ1部カテゴリーのボルドーのチームで、技巧派のリベロとして名を馳せた人物だ。
センターバックにしては、かなり多彩なテクニックを持っている。
「もしくは前線の枚数を増やすために、オレにボールを預けたってところか?」
スライドの大きいドリブルを使って、前線へとボールを持ち上がるヴァンドームさん。
「これ以上、貴方に突破を許すワケには行かない」
その進路を塞ごうと、ロランさんが立ちはだかった。
「そりゃそうだろうな。そっちのディフェンス陣は、控えメンバーしか居ないんだからよ」
嫌味そうな顔をしたヴァンドームさんが、右サイドから前線に走るランスさんの位置を確認する。
けれどもランスさんには、オリビさんがマークに張り付いていた。
「予想通りだねェ。だが、こんなパスコースもあるんだ、ロラン」
ヴァンドームさんは、左サイドからペナルティエリアに走り込む、アルマさんへのパスを狙っていた。
「それくらい、読んでいる。ナメてくれるな!」
ロランさんがパスコースを切りながら、タックルでボールを奪いにかかる。
けれどもヴァンドームさんは、パスを出すそぶりを見せただけだった。
「なにィッ!?」
勢い余って、ヴァンドームさんの脚を刈り取ってしまうロランさん。
技巧派リベロは地面に転がり、痛そうに脚を抱え込んでいる。
『ピーッ!』
レフェリーが笛を鳴らし、試合が中断され、ロランさんにイエローカードが提示された。
ペナルティエリアの10メートルくらい手前からの、直接フリーキック。
キッカーは、さっきまで転げまわっていた、ヴァンドームさんだった。
「この距離なら、べリックのヤツに蹴ってもらうまでも無い。オレが直接、叩き込んでやるさ」
控え組のキーパーが指示を出し、ヴァンドームさんの前に壁が構築される。
「aucun problème(問題ない)」
アルセーヌ・ド・ヴァンドームさんの蹴った直接フリーキックは、左から壁を避けるように大きく弧を描いて、ボクたちのゴールへと吸い込まれた。
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