ラノベブログDA王

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キング・オブ・サッカー・第7章・EP034

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トランジションとビルドアップ

 来根 粋螺(こるね スッラ)さんは、理想的なボランチの代名詞として、名を馳せた選手だ。

 アンカーとしての能力を、ほぼ全て高いレベルで備えている。
相手の動きを読んでのボール奪取能力に、ドリブルでの突破やロングパスでの展開力まであるんだ。

「それはこっちの台詞だぜ、アルマ。お前とは、県大会で何度もやり合ったからな」
「そしてオレは、一度もキミには勝てなかった」
 ボールをキープしながら、アルマさんはスッラさんと、何やら話している。

「そりゃ、お前の学校が進学校で、サッカー部が弱かったからだろ。そんなチームに、オレたちは苦戦を強いられていた。お前さえ居なきゃ、楽勝だったんだがな」

「買い被りだな。キミは、全国に行くべくして行った。単純にキミの方が、能力が高かったんだ」
「まあな。だが、お前ホドのボランチは、全国にすら居なかったぜ」
 激しい駆け引きをする、2人のボランチ。

「なにチンタラやってだよ、スッラさん。オラ!」
 2人の勝負に、ネロさんが割って入った。
アルマさんの身体を斜め後ろから僅かに押し、ボールに触る。

「し、しまった」
 アルマさんの足元から離れたボールは、スッラさんの足元に収まった。

「テメー、ネロ。オレとアルマの勝負(ワン・オン・ワン)を、なに邪魔してんだ!」
「うっせ。個人の勝負がしてーんなら、格闘技でもやってろ。文句言ってねぇで、展開しやがれ」

「まったく、年下のクセに口の悪いヤツだぜ」
 同僚に文句を言いつつも、前線にパスを入れるスッラさん。
ペナルティエリアの僅か左に出されたボールに、チュニジア人ストライカーが走り込む。

 流石、スッラさんだ。
あっさりと、攻守を逆転(トランジション)されちゃった。

 トランジション……近代サッカーに置いて、攻守の切り替えのスピードはなにより重要とされる。
それを体現できるスッラさんが、各年代の代表に名を連ねるのも必然だろう。


「さっきはやられたがね。今度は通さんよ」
 バルガさんの前に、ヴァンドームさんが立ちはだかる。

「どうだかな!」
 チュニジア人ストライカーは強引に突破を計り、ヴァンドームさんのマークを引きずったままシュートを放った。

「ヴォーバン!」
 ヴァンドームさんが、叫ぶ。

「任せな(laissez-moi faire)!」
 フランス人ながら、アフリカのマリ共和国にルーツを持つキーパーが、今度はガッチリとボールをキャッチした。

「そう何度も、入れさせるかよ。ヴィラール、後は任せた!」
 スローインで、センターバックでリベロのヴィラールさんに、ボールを渡すヴォーバンさん。

「さて、そろそろ身体もほぐれて来たところだ。攻めるかね」
 ヴィラールさんは、口髭の端を指で挟むと、優雅にドリブルを開始する。

 ワントップのフルミネスパーダMIEに、プレスをかける選手はおらず、センターラインまでボールを持ち上った。
対するMIEの選手はポジションを崩さず、引いて護っている。

「フム、相手は動かんか。では、尚も進むとしよう」
 ヴィラールさんはさらに、ボールを持ち上がる(ビルドアップ)。

 テレビで見た、フランストップリーグでの光景。
スッラさんが、トランジションの名手なら、このヴィラールさんは、ビルドアップの名手なのだ。

 ボクは今、テレビで見ていた選手と同じピッチに立ち、同じユニホームを着ているんだ!
サッカー選手冥利に尽きるって、ヤツかな?

「早々、抜かせるかよ!」
「オレたちが、止めてやる!」
 MIEの攻撃的なMFに入った2人が、プレスをかける。

「悪手だね、それは」
 プレスの前に、ヴィラールさんはボールを叩(はた)いた。

「ナイスです、ヴィラールさん」
 後ろ向きにボールを受ける、アルマさん。

「させるかってんだ!」
 ネロさんがすかさず、ボールを奪いに行く。
けれどもアルマさんは、ダイレクトでボールをヴィラールさんに返した。

「ヴォン、アルマ。良き判断だよ」
 ヴィラールさんも、返されたボールをダイレクトで蹴り出す。

「なッ……しまったッ!?」
 ボールは、ネロさんが飛び出したために開いたスペースに落ちた。

 そしてその場所には、ボクが立っていた。

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