ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第09章・第05話

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時間の壁

 クララが放った一言は、天空教室を震撼させる。

「ねえ、先生と過ごせる時間が、あと僅かってどう言うコト?」
 レノンが、心配そうに問いかけて来た。

「もしかして、テストの結果が悪かったら、先生は居なくなっちゃうですか!?」
 アリスも、不安そうな顔をボクに向ける。

「その通りだよ。久慈樹社長との、契約だからな」
 ボクは、流石に落ち込んでいたし、何より生徒と別れるのは寂しかった。

「あんな契約、破棄しちゃえば良いのよ!」
 栗色の髪の少女の声が、教室に響く。

「大体先生とは、わたしが家庭教師として契約を結んだのよ。それをアイツが、後から難癖を付けて条件を付け足しただけじゃない!」
 ユミアの言う通り、ボクは最初、彼女の出した家庭教師の求人に応募してここに来た。

「そうも行かないさ。あの場で直ぐに断っているならともかく、ボクはその条件で了承したんだ。コトここに及んでじゃ、聞く耳を持たれないだろう」

「先生。その条件って、わたし達が一定以上の学力を見に付けるコト……よね?」
 メリーが言った。

「そうだ」
 短く答える、ボク。

「契約を打ち切られたら、先生居なくなっちゃうんでしょ?」
「そんなの、ぜったいイヤなのですゥ!」
 レノンとアリスが、メリーの方を見る。

「どうやら、ヤル気はあるようね。解ったわ。わたしがまた、勉強を見てあげる」
「やったぜ!」
「メリー先生の、復活なのですゥ」

 八木沼 芽理依(やぎぬま めりい)は当初、ボクのアナログ時代の古典的な授業に反発していた。
けれども彼女は心を入れ替え、教師まで志す。
それだけでもボクは、教師になって良かったと思えていた。

「そんなに都合よく、行くのかしら。メリー、貴女はアイドルなのでしょう?」
 再びクララが、釘を刺す。

「それは……でも、合間に勉強を教えるくらいは……」
 勉強を教える難しさを知る、メリー。
一長一短に覚えれるモノでは無いコトは、彼女自身が解っているハズだろう。

「で、ですがメリーさん。ライブはまだ、初日が終わったに過ぎないのですわ」
「来週には4日間のライブが、予定されているのですわよ」
 アロアとメロエの、ゴージャス双子姉妹が反論する。

「アロア、メロエ、アンタたちはそれでイイの。先生が、居なくなっちゃうのよ」
「ユミア、何を優先するか決めるのは、本人次第だよ。アロアとメロエは、ずっと芸能界で成功するコトを目指して来たんだ。ボクに、それを邪魔する権利は無いよ」

「で、でも、このクラス全員の成績を良くしなきゃ、先生はこの天空教室に居られなくなるのよ!」
「解っている。でも、それはボクのエゴだ。ボクのエゴで、キミたちの未来を台無しには出来ない」

「ちょ、ちょい待つッス。計画的に時間を割って、頑張って勉強すればきっとなんとかなるっスよ」
 テミルが、不動産屋らしい提案をした。

「アイドルとして活動し、その合間に勉強をしても残念だがあまり身には付かないさ」
「先生が、そんな弱気でどうするんです」
 教会の牧師見習いであるエリアが、ボクを窘(たしな)める。

「そうだよ、まだ時間があるんだから!」
「ボクだって、心臓の病気を克服できたんだ。先生だって、頑張んなきゃ!」
 カトルとルクスも、励ましてくれた。

「世の中には、頑張って出来るコトと、そうで無いコトはあるのよ」
 クララは尚も、反対の意見を述べる。

「なんだよ、クララ。さっきから!」
「勉強くらい、頑張れば誰でもできますよ!」
 今度は、タリアとアステが反論した。

「確かにそうね。でも、時間があればの話よ。例えば頑張れば、100メートルを10秒台で走れるかも知れない。でも、来週走れるようになるかと言えば……」

「無理な話だと、思う……」
 クララの意見は、奇しくもボクが出した結論と同じだった。

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