試合終了のホイッスル
ペナルティーエリア、わずか手前からのフリーキック。
「よし、オレが決めてやるぜ!」
キッカーに立ったのは、ファウルを受けたイヴァンさんだった。
「待って下さい。キッカーは、オレです」
蹴る気が満々の野生児ストライカーに、声をかけるロランさん。
「残念だが、譲る気は無ェぜ。これは、オレが奪ったフリーキックだ」
イヴァンさんはボールを強引に置き、ロランさんを腕で跳ね飛ばそうとした。
「アナタじゃ、決められないから言ってるんです。この試合オレは、勝たなくちゃならない」
ロランさんは、イヴァンさんの腕首を掴んで押し返す。
「なんだと、テメー。自分なら、決められるとでも言うのか?」
「はい。絶対に決めます」
青いビブスの10番は、そう言い切った。
ス、スゴい自信だ。
そこまで、言い切るなんて。
「ケッ、しゃ~ない。今回だけは、お前に譲るがよ。決めなかったら、承知しねェぜ」
「心配いりませんよ、決めますから」
ロランさんが、左斜め後ろに下がって助走幅を取る。
リベロのヴィラールさんとヴァンドームさんを中心に築かれた壁は高く、その向こうにはヴォーバンさんが控えていた。
前線にはルネさんとヴァロンさんが残り、アルマさんやラフェルさんも壁に加わっている。
「姉さん、オレはオレのサッカーを、貫くよ」
助走を開始する、ロランさん。
右脚のインサイドで、ボールを蹴り上げる。
……決まった。
ボールは美しい弧(シュプール)を描き、ゴールの右隅へと納まっている。
キーパーが1歩も反応できない、美しいフリーキックだった。
「よっしゃ、これで1点差だぜ」
キックを譲ったイヴァンさんが、ボールを抱えて戻って来る。
「あと1点取って、同点にするぜ」
「違いますよ、イヴァンさん。あと2点取って、逆転です」
試合が再開され、ボールを受け取ったばかりのルネさんから、ボールを奪うロランさん。
「ここは、通させない!」
アルマさんが直ぐに反応し、ロランさんのドリブルコースに立った。
「一馬!」
前回は、強引なドリブル突破を試みたロランさんだったが、今度はパスを選択する。
パスの相手は、ボクだった。
さっきは、ボクがボールを奪われたせいで失点したのに……。
それでもボクに、ボールをくれるんだ!
ロランさんの期待に答えようと、必死にボールをキープする。
でもヴィラールさんは、簡単には前を向かせてくれない。
「ボウズ、こっちだ!」
中盤から上って来たイヴァンさんが、ボールを要求した。
ヴィラールさんを相手に、いつまでボールキープできるか解らない。
ココは……。
「待て、一馬。ヴァンドームが狙っている!」
オリヴィさんが、叫んだ。
ボクは慌てて、パスを止める。
「チッ、余計なマネを……」
パスカットをしようと飛び出したヴァンドームさんの背後に、スペースが生まれた。
よし、ここだ。
ボクは出来たスペースに、スルーパスを出す。
「ナイスだ、一馬!」
声でアドバイスをくれたオリヴィさんが、生まれたスペースに走り込んだ。
「マズい、オリヴィはシュートを持っているぞ!」
「わかってるぜ、ヴィラール!」
直ぐにオリヴィさんに対応する、2人のフランス人リベロ。
「オレは、シュートは本職じゃないんですがね」
裏をかき、フワリとしたボールを上げるオリビさん。
「流石は相棒だ、オリヴィ」
ヴィラールさんの前に飛び込んで来たのは、ロランさんだった。
華麗なボレーが、キーパーのニアサイドに決まる。
またしても動くコトの出来なかったヴォーバンさんが、ピッチを叩いて悔しがる。
「これで、同点だぜ」
イヴァンさんが、ロランさんの肩を抱いた。
「いえ、まだ同点です。早く試合を……」
その時、ホイッスルが鳴る。
得点を認めるホイッスルは鳴っていたので、それは試合終了のホイッスルだった。
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