エースの意地
「延長戦に入って、いきなり2点のビハインドとはよォ。あのユース上がりのストライカー、ランスの野郎よりよほど脅威だぜ」
爆弾が落ちたみたいな威力のヘディングに、大砲のごとく撃ち出されたシュート。
イヴァンさんすら認める、ヴァロンさんの実力が遺憾(いかん)なく発揮された2得点だった。
「そうですね。ですが2点のアシストをした、ルネも大したモノですよ」
オリヴィさんは、同じ中盤のルネさんを評価する。
「今まではバックラインが強固なだけで、攻撃はアルマさんかフランス人トリオの誰かが組み立てるスタイルだったが、厄介なヤツらが出て来たな」
「ボールの出どころが増えただけでも、かなり厄介やわ」
同じく途中からゲームに入って来た、リナルさんとワルターさんも警戒していた。
「だったら、ルネってヤツをマークすりゃあ、済む話じゃねェか?」
「それだと、アルマさんがゲームを組み立てます。アルマさんからヴァロンへのパスも、警戒しないと」
「べリックさんからのクロスの線もあるぞ、オリヴィ」
イヴァンさんの安直な意見に、反論するオリヴィさんとリナルさん。
「とにかく、相手も補強されたのは間違いないだろう」
ロランさんが、センターサークルでボールを蹴り出す。
「だけど、やるコトは単純さ。オレたちが、1点多く取るだけだ」
ボクが返すと、ロランさんは勇敢に敵陣へと斬り込んで行った。
「そう何度も、抜かせないよ」
アルマさんが、やはりロランさんの進路を塞ぐ。
すかさずオリヴィさんが、パスを受けられるポジションへと入った。
「イヤ、ここはオレが抜く!」
パスを選択せず、ドリブル突破を図るロランさん。
けれども今度は、アルマさんがピタリと身体を寄せ抜かさせない。
「エースとして、冷静さに欠けるな。それでは勝てないよ、ロラン」
ベンチでほくそ笑む、壬帝オーナー。
「ロラン、時間が無いぞ。パスを出せ」
あえてあまり動かずに、パスを貰えるポジションを保ち続けるオリヴィさん。
「ここは突破する!」
「させないと言っている!」
エースと、エースキラー……2人の意地と意地が、ぶつかり合う。
「警戒を怠るなよ、ヴァンドーム」
「ああ、解かっているさ、ヴィラ―ル」
前線を張るボクとイヴァンさんにも、2人のフランス人がそれぞれマークに付いていた。
「さあ、どうする。時間は刻一刻と、過ぎ去って行くぞ」
2点のリードを得て、余裕で金色の高級腕時計を確認する壬帝オーナー。
「ここだ!」
ロランさんは、ペナルティエリアのかなり手前から、アルマさんのマークを外せないまま、強引にシュートを放った。
「焦り過ぎだよ、フフ……」
余裕の表情の、壬帝 輝流(みかど シャル)。
「ヴォーバン!」
けれども強引かに思われたシュートは、ちゃんとゴールの枠内の際どいコースに飛んでいた。
「任せな、ヴィラール」
横っ飛びに飛ぶ、フランス人キーパー。
今日、何度かゴールを許したキーパーは、今度はパンチングでシュートを弾いた。
「ナイスセーブだ、ヴォーバン」
ヴァンドームさんが、上空に上がったルーズボールを、ヘディングでクリアしようとジャンプする。
「これだァ!」
そのボールを、ヴィラールさんにマークされていたイヴァンさんが、狙っていた。
ダンディーなフランス人リベロと、野性味あふれるストライカーが、空中で競り合う。
「よくやった、ヴァンドーム」
ヘディング自体はイヴァンさんが競り勝ったものの、威力のあるシュートにはならず、ヴィラールさんに左のタッチライン際へとクリアされてしまう。
「マズい、べリックだ!」
リナルさんが、叫んだ。
ボクたちから見た左サイドには、相手の右サイドバックのべリックさんが控えていた。
「ナイスパスだ、ヴィラール」
ボクがクリアだと勘違いしたのは、フランス人リベロの巧みなパスだった。
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