毛間 禰絽(げま ネロ)
ヴォーバンさんの護る、ゴールが抜かれた。
時計を確認すると、開始してまだ3分しか経っていない。
「何しとるんじゃ。どうしてオレに、パスを出さなかった!」
イヴァンさんが、怒鳴って来た。
「それはお前が、オフサイドポジションに居たからだろう」
ボクの横から、ランスさんがしゃしゃり出て来て反論する。
「テメーだって、オフサイド取られたじゃねェか!」
「あれは、相手のディフェンスラインが巧みだったからだ。お前のように、なにも考えずに突っ込んでいるワケではない」
「結果は、同じだろうがよ」
「つまりお前では、フルミネスパーダMIEのバックラインを抜けないと言うコトだ」
相変わらず犬猿の仲のツートップは、顔も合わさず左右へと別れて行った。
「流石にどちらも、自分でボールを持ち上がれるとは思ってないくらいには、冷静なようだね」
センターサークルで、オリビさんがボクだけに聞こえるように囁く。
「だけど、ランスさんの言うコトは正しい。ボクは、オフサイドにはならないと思って、パスを通した。それなのに、ラインズマンのフラッグが上ったんだ」
ボクも、オリビさんの意見に参戦だ。
逆サイドから見てたケド、ランスさんのウェーブでの動き出しは理想的で、普通ならオフサイドになるハズが無い。
それだけ、MIEのバックラインが統率されているんだ。
「もう一度、試してみよう。ロラン、キミが仕掛けてくれ。ボクが、フォローする」
今度はオリビさんがボールを出し、ボクが受け取った。
同じ日高グループのチームと言えど、お互いの情報にはそこまで詳しくないみたいだ。
だったら、仕掛けるしかないよね。
まずはゴールを決めた、チュニジア人ストライカーに向かって行った。
けれどもバルガ・ファン・ヴァールは、あっさりと進路を開け渡し、ボクの後方へと走って行く。
ボクとの勝負を避けたってより、ボールを奪われたら、直ぐにカウンターでゴールを決めてやるぞって、プレッシャーを掛けてるんだ。
相手はスリーセンターにツーサイドバック……つまりファイブバック。
ボランチも2枚と、メチャクチャ守備的だな。
中盤はボックス型で、5-4-1か。
相手のポジションを頭に描きながら、ボクはドリブルで攻撃的なポジションの2人を抜き去る。
すると、ボランチの1人がカニ挟みのような、危険なタックルを仕掛けて来た。
うわッ、危ない!
咄嗟に飛び退くも、相手の腿辺りが引っ掛かってボールを失ってしまう。
タックルは両足を開いたままの状態で、ファウルの笛はならなかった。
「なるホド、ファウルと紙一重のプレー……キミが、毛間 禰絽(げま ネロ)か」
ボールは、オリビさんがフォローしてくれる。
「キシシ、そうだぜ。最悪、ファウル貰ったって構やしねェケドな!」
ネロって人は不気味に笑いながら、今度はオリビさんに密着マークをした。
「クッ、コイツ……」
「タックルだけが、オレの全てじゃねえ。スッポンみてえな密着マークも、オレの得意よ」
テクニックのあるオリビさんですら、ネロさんのマークを外せない。
「オリビ、こっちだ!」
「アルマさん、頼みます」
後方から、ボランチのアルマさんが攻撃に参加し、オリビさんからパスを受けた。
「よし。このまま前線に持ち上がって、チャンスを作るぞ」
アルマさんは、針金が通ったように背筋をピンと伸ばし、完璧なフォームでドリブルをする。
「やらせはせんさ、アルマ!」
ボランチのもう1枚が、アルマさんの進路を塞いだ。
「ヤレヤレ、またキミと戦うコトになるとはね」
アルマさんは、ため息を吐く。
アルマさんの前に、立ちはだかったボランチ。
その人の名前は、ボクでも知っている。
各世代の代表に、必ず名前を連ねていた選手……。
来根 粋螺(こるね スッラ)さんだ。
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