熱田 折火(あつた オリビ)
ヴァンドームさんの左脚から放たれた、芸術的な弧を描いた直接フリーキックで、同点に追いつかれてしまったボクたち。
「スマンな、オレがファウルをしてしまったばかりに」
チームメイトに、謝罪するロランさん。
「だが、元より撃ち合いは覚悟の上なんだろ、ロラン」
イヴァンさんが、点ならいくらだって決めてやるとばかりに言った。
「そうですね。現状、こっちの守備力では、白ビブスの攻撃は凌ぎ切れません。より点を多く決めるしか、方法は無いかと」
「おい、オリビ。オメー、失礼じゃねェか」
「いくらレギュラーだからって、オレたちだってプロなんだぜ」
「ああ。次こそはシュートを、防いでみせるさ」
オリビさんの言葉に反発する、青ビブスのチームメイトたち。
彼らは普段なら控え組だケド、紅白戦は絶好のアピールの場であり、下剋上の場でもあるんだ。
「プロを豪語するのであれば、それは結果で証明して見せて下さい」
「な、なんだと!」
「オリビ、テメー調子こいてんじゃねェぞ」
「結果見せろってんなら、見せてやろうじゃねェか」
オリビさんの巧みな話術で、闘志を見せるチームメイトたち。
それから試合は再開され、ロランさんが再びボールを持った。
「今度は抜かせないよ、ロラン」
やはりと言うべきか、アルマさんがロランさんのマークに付く。
「ソイツは、どうですかね」
突破を試みるも、アルマさんに身体を寄せられ、思う方向にドリブルが出来ないロランさん。
その様子を、ベンチの壬帝オーナーも見ていた。
「フッ、アルマは優れたボランチだ。ロランやスッラのような派手なテクニックは無いが、相手を抑え抜かせないコトに関しては、アルマの方が勝っているのだよ」
壬帝オーナーの思惑通りに、右サイドへと追い詰められていくロランさん。
突破は無理と判断し、中央のオリビさんへとボールを戻した。
「ロランが抑えられている……だが、厄介なアルマさんが居ないこの状況」
相手はアルマさんのワン・ボランチのため、中央のコースはセンターバックまで空いている。
「オリビ、後ろから来ているぞ!」
「気を付けろ!」
他のチームメイトからの指摘の通り、後ろから攻撃的なワイドに開いていた中盤2人が、オリビさんのボールを奪おうと迫っていた。
「了解ですよ、先輩方」
オリビさんは、ハの字で迫る2人の間を、ヒールキックでパスを通す。
センターバックがボールを受けたのを確認すると、そのまま中央のレーンを走り始めた。
「オリビ、頼んだぜ」
青いビブスのセンターバックが、オリビさんにロングボールでパスを返す。
立ち止まってしまった攻撃的ワイドの2枚は、完全に置いていかれてしまった。
「だが、パスが正確では無いな。だから控え組なのだがね」
イヴァンさんをマークするヴィラールさんが、なにやらフランス語で呟いている。
パスは左サイド寄りに逸れ、オリビさんも走る軌道の修正を余儀なくされた。
「よし、なんの問題もない」
けれどもオリビさんは、後ろから来るロングボールを、難なく足元で処理する。
「ほう、見事なトラップじゃねェか」
ボクをマークするヴァンドームさんも、フランス語を言った。
タブン足に吸い付くようなトラップを、褒めているんだと思う。
そのまま左寄りをドリブルする、オリビさん。
その前に、相手の右サイドバックが付こうとしていた。
右サイドバックは、べリックさんだ。
オリビさんでも、ドリブルを止められる可能性がある。
そう判断したボクは、ペナルティエリア中央から、べリックさんの護っていた左サイドに走り出した。
「ナイス判断だ、一馬」
べリックさんは、ボクの背後への走り出しを警戒して止まり、オリビさんは僅かな隙をついてペナルティエリア中央へと進出する。
「こっちだ、オリビ!」
右サイドで、アルマさんを引き連れたロランさんが手を挙げた。
「イヤ、オレに寄こせ、オリビ!」
1点目を決めた、イヴァンさんもボールを要求する。
けれどもイヴァンさんには、ヴィラールさんがマークに付いていた。
「ヤレヤレ、オレも舐められたモノだね」
オリビさんの選択は、パスでな無くドリブルでの中央突破だった。
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