アベル・ルイ・ヴィラール
少し前までのボクは、自宅のリビングでサブスク契約したヨーロッパサッカーを見ていた。
……やっぱ、スゴいや。
ヨーロッパのトップリーグの1つがフランスの1部リーグであり、フランスの代表的なクラブで試合に出てたのが、ヴィラールさんやヴァンドームさんだった。
ヨーロッパリーグなんて、ボクには遠い存在だったケド、ヴィラールさんやヴァンドームさんは、そんな遠い場所から日本にやって来て、ボクの目の前でプレイしてくれてるんだ。
「どうした、一馬。落ち込んでいるのか」
声をかけてくれる、オリビさん。
「イヤ、オレの責任だ。オレが、横パスをカットされたばかりに……」
リナルさんが、悔しそうに言った。
「そうじゃないさ、リナル。一馬はきっと、嬉しいんだ」
「なにを言っているんだ、ロラン。1点、奪われたんだぞ」
反論する、リナルさん。
「まあ、そうなんだケドさ。相手はあの、アベル・ルイ・ヴィラールだ。少し前までは、フランスのトップリーグで普通にレギュラー張ってた男だからな。そんな選手とやれて、嬉しいんだよ」
「確かにオレも、フランスのトップリーグで活躍する3人が入団するって聞いたときは、にわかには信じられなかったからな」
オリビさんも、ロランさんに同調する。
「まさか、太陽王と日本のクラブでチームメイトになるなんて、オレですら思っても無かったぜ」
「ああ。相手に回すと厄介だが、確かに面白ェ敵ではあるな」
イヴァンさんとワルターさんも、好敵手を前にニヤリと微笑んだ。
「一馬も、同じ気持ちだよな?」
ボクは、大きく頷(うなず)く。
ロランさんも、ボクと同じ気持ちなんだ。
やっぱサッカーって、マジで楽しい。
3-2となった試合のホイッスルが、鳴り響いた。
今度はロランさんが、ドリブルを開始する。
「そう何度も、抜かせない!」
敵チームのキャプテンとなったアルマさんが、進路を阻んだ。
「オリビ!」
「おう、ロラン!」
綺麗なワン・ツーが決まり、パスでアルマさんを抜き去る。
小学世時代からコンビを組んで来ただけあって、阿吽(あうん)の呼吸なんだ。
「あのアルマが、何度も抜かれるなんてね。流石は、ウチのエースだ」
相手を称賛しつつ微笑む、ヴィラールさん。
イヴァンさんのマークを外し、ロランさんに向って行った。
「エースストライカーのマークを外してまで、オレに来てくれるか。感謝するぜ」
ロランさんと、ヴィラールさん。
青のビブスと白のビブスに別れたエトワールアンフィニーSHIZUOKAの、両エースが激突する。
やっぱ、2人ともスゴい。
ヴィラールさんは、イヴァンさんへのパスコースを切りながらロランさんのドリブルを止めた。
ロランさんは、ヴィラールさんが詰め寄る前に、自身をペナルティエリアの中に入れている。
ヴァンドームさんやべリックさんが最終ラインを僅(わず)かに上げたため、イヴァンさんはオフサイドのポジションになってパスは出せなくなっていた。
ヴィラールさんも、後ろからロランさんを追っていたアルマさんも、ロランさんがペナルティエリアに入っているために、激しくチャージには行けない。
ファウルを取られれば、則PKだからだ。
ペナルティエリア内で、激しく駆け引きを繰り返す2人。
ロランさんがフェイントをかければ、ヴィラールさんは瞬時に対応し、ヴィラールさんがボールを奪おうとしても、ロランさんが軽くいなしてボールを奪わせない。
「2人だけで、サッカーやってんじゃねェぜ!」
膠着(こうちゃく)状態が続くと思われた矢先、苛立ったイヴァンさんが、ボールを貰いに近づいた。
結果的に、イヴァンさんはオフサイドポジションじゃ無くなっている。
「よし、ここだ」
ロランさんが、仕掛けた。
右脚でのダブルタッチの後、フワリとボールを浮かし、イヴァンさんに浮き球のパスを通す。
「やらせはせんよ」
ヴィラールさんの伸ばした左脚が、浮き球のパスにほんの少し触り、僅かにパスコースがズレた。
「クソ、このままじゃシュートが撃てねェ」
ゴールキーパーに背を向けたままでしか、ボールを受けられなかったイヴァンさん。
そのボールを、ボクは狙っていた。
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