ヴァロンとルネ
真新しい芝に、新設されたばかりのピカピカのスタンド。
背の高い照明が四方に立っていて、恐らくは公式戦にも使えそうな練習用スタジアム。
言っちゃ悪いケド、デッドエンド・ボーイズの設備とは雲泥の差だよな。
ロランさんを始め、才能あふれる選手たちが揃っている。
こんなチームに、ボクたちは勝てるのだろうか。
「一馬!」
ロランさんの声が、聞えた。
フォワードの位置に入ったボクの足元に、正確なパスが来る。
あッ、しまった!
けれども他事を考えていたボクは、トラップミスをしてしまう。
「フッ、流石に体力切れか?」
ボクをマークしていたヴァンドームさんが、ルーズボールをそのままビルドアップ(持ち上がる)して、前線に進出する。
「チェ。褒められた途端、コレかよ」
「仕方ないですよ、イヴァンさん。彼はまだ高1で、フランスのプロリーグで戦っていた選手たちを相手にしてるんですから」
そう言い残すと、ロランさんは守備へと戻って行った。
ダ、ダメだ、ゲームに集中しないと!
褒められて、浮かれてる場合じゃないんだ。
パンパンと頬を叩き、気合を入れる。
「さて、相手の坊やはお疲れのご様子だが、お前たちは入って来たばかりだ。壬帝オーナーの眼鏡にかなった実力とやらを、見せて貰おうじゃねェか」
ヴァンドームさんはセンターサークル付近から、スピードのある低い弾道のパスを左サイドに入れた。
「うわッ、戻らねェと!」
右のサイドハーフのワルターさんが、背後にパスを入れられ、慌てて戻る。
「そうですね。言われなくとも、見せて差し上げますよ」
ボールを受けたのは、金髪の長い髪の選手だった。
ヴァンドームさんからの難しいボールを、完全に勢いを殺し足元に止めてしまう。
「やらせるか!」
赤いモヒカンをなびかせたワルターさんが、後ろからプレスをかけた。
前からも、控え組の蒼いビブスを着た右サイドバックが迫る。
「2人程度で、わたしからボールを奪えますか?」
クスッと微笑むと、ワルターさんら2人を相手に、華麗なボールテクニックを見せた。
白いビブスに金髪が舞い、足の裏でボールを巧みに操作する。
「コ、コイツ、なんてテクニックだ!」
フォワードからコンバートされたばかりのワルターさんでは、歯が立たなかった。
「ルネ、延長戦は10分ハーフなんだ」
アルマさんが、金髪の選手に声をかける。
「では、そろそろ仕掛けるとしましょう」
ルネと呼ばれた選手は、一気に加速し2人を置き去りにした。
「行きますよ、ヴァロン」
ボクたちから見た右サイドを突破し、鋭いクロスを上げるルネ。
「ガハハ、任せな」
ペナルティエリアでは、酔っぱらったような赤い肌をした、少し太り気味の大男が待ち構えていた。
「ユース上がりに、得点されてたまるか」
「ココは、クリアだ」
オリビさんとリナルさんが、宙を舞う大男に身体を当てディフェンスする。
「ヌルいプレスですな、先輩がた。ガハハ」
体格的に勝るヴァロンと呼ばれた大男は、2人が相手でもビクともしなかった。
「ドラァッ!!」
雷鳴のような大声が響き、強烈なヘディングが、ボクたち蒼いビブスのチームのゴールネットに突き刺さった。
ボクのミスから、決められた失点。
しかも、始めて相手にリードを許すコトに……。
「へェ。やるじゃねェか、あの2人」
「アレは、直ぐにトップチームに定着するよ」
ヴァンドームさんとヴィラールさんが太鼓判を押す、ヴァロンさんとルネさん。
「オイ、気ィ抜いたプレイをしてると、一気に持って行かれちまう。気合入れろ」
センターサークルで、イヴァンさんに背中に気合を入れられるボク。
痛いケド、今のボクにはありがたい。
「ヴァロンと、ルネか。面白い選手が、上って来てくれたな」
「面白がっている場合じゃないだろ、ロラン」
オリビさんが、注意喚起した。
それは直ぐに、現実のモノとなる。
ボクへのボールをヴィラールさんにカットされ、左サイドハーフのルネさんに出される。
今度は裏をかいてカットインして、ペナルティエリアに進入したルネさん。
そのままシュートを放つかと思いきや、センター付近にボールを戻す。
「ガハハ、お膳立てご苦労だ、ルネ!」
酔っぱらった肌のストライカーが、丸太くらい太い右脚を振り抜く。
豪快にインパクトされたボールは、大砲のような勢いで撃ち出され、ゴールネットを引っ張ったまま固定した。
前へ | 目次 | 次へ |