試験(テスト)と言う名の審判
まだ観客が、入場途中のライブ会場。
突発ゲリラライブだと言うのに、大勢の観客がすでに入り始めていた。
「1つ、聞いてもいいですか?」
「ン、なんだね。答えられるコトなら、答えるが……」
久慈樹社長は、巨大な塔のそびえるステージから戻って来ると、足を組んでVIP席に座る。
「ボクの、生徒たちのコトです。どうして社長は、彼女たちをアイドルにしようと思ったのですか?」
それだけは、どうしても直接聞いて置きたかった。
「アイドルオタクでもないボクが、どうしてアイドルなんかのプロデュースをしてるのかって?」
久慈樹社長は、ボクが感じていた違和感をそのまま口にする。
「そうだな。愚民どもが、偶像(アイドル)を求めているからさ」
「本来の意味での……アイドルですか」
「偶像を崇める行為は、一神教などでは禁止されちゃあいるが、この国はそこら辺大らかだからね」
まあ掛けたためよとばかりに、手招きをするユークリッドのオーナー。
「別に、誰かをアイドルとして崇めるヤツらを、咎(とが)めているワケじゃないさ。人は多かれ少なかれ、憧れのアイドルってヤツを持っている。それがアイドル歌手の場合もあれば、サッカーや野球などのスター選手の場合もあるだろう。場合によっては、歴史上の偉人ってコトもね」
「最近じゃ、動画配信者ってパターンもありますよ」
他の実例を提示しながら、ボクは社長の隣に座った。
「おっと。ボクとしたコトが、肝心なのを忘れていた。瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)も、そうやってアイドルとして認知されて行ったのだ」
「アイドルを目指してもいないのに、そうなってしまう人間も居るってコトですね」
「どうだろうか。女性ってのは、男にチヤホヤされたいって言う気持は、多かれ少なかれ持っているんじゃないかな」
「ユミアも、持っていたってコトですか?」
「そりゃ、そうだろう。嫌がっているフリをして、随分と楽しそうだったからね」
女性に関するウワサが、絶えたコトがない男が言った。
「女ってのは、見栄っ張りな生き物なのさ。特に、男に対してはね。自分の達成したい目標を、出来る限り自分は動かずに、周りをコントロールして成し遂げようとする」
「そ、そんなモノですか……」
「本当に嫌がっていたら、あんな笑顔はできないさ」
久慈樹社長は、ガラス張りの塔を見上げている。
「それを、あざといと妬(ねた)む女も居るがね。他の女が、上手いコト男をモノにしているのが、気に食わないのだろう。そう言うゲームだと言うのに、愚かなヤツらだよ」
久慈樹 瑞葉は、女性と言う生き物をとことん見下しているように感じた。
……と同時に、どこか神聖視しているようにも思える。
「さて、もうすぐキミにとって、ユークリッドでの最後となる可能性のある、ショーが始まる」
久慈樹社長は、ボクにそう宣告した。
いつの間にやら、巨大なすり鉢状の観客席に、大勢の観客が詰まっている。
これだけ大勢の人間が、ボクの生徒である少女たちを目当てに、遠路はるばる押しかけて来ていた。
『皆さま。本日はご来場いただき、誠にありがとうございます。開幕、20分前となりました』
『これより一旦照明を落としますので、ご移動の際は足元にお気を付け下さい』
レアラとピオラの声でアナウンスがされ、直後に照明が落とされる。
昼間のライブなので、ドーム会場と言えどそこまで暗くはならずに、天窓からは自然光がステージ上に降り注いでいた。
「ボクは前に、壮大な実験をしていると言ったね」
目の前のガラスの塔は、キラキラと輝いている。
「はい。その実験の答えが、今日のステージですか?」
「まあ、そんなところさ」
塔のガラスに、ユミアやレノン、タリアやライアなど、ユークリッドのアイドルたちの表情が並んだ。
数多のガラスパネルの中の映像は、次々に移り変わり激しくBGMが鳴り響く。
「今日のライブで、彼女たちに試験(テスト)と言う名の審判が下される」
いよいよ、最終ステージの幕が上がってしまった。
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