偉大なる数学者
7人の冥府のアイドルのうち、ボクの知っている3人のアイドルの紹介が終った。
「卯月さんに、花月さん、由利さん……」
かつて、ボクと同じボロアパートに住んでいた、どこにでも居そうな3人の少女たち。
「今は、ミク、フウカ、ミライなんだな」
大勢の観客が集う巨大ドームのステージで、スポットライトを浴びる存在となっていた。
「どうだい、彼女たちは。キミの教え子も、少し合わない間に見違えただろう?」
「ええ、そうですね。ボクは普通の顔の彼女たちしか、知りませんでした」
ボクが答えると、久慈樹社長は微笑を浮かべる。
「そこは、キミ。キレイになったとか、言ってやるモノだよ」
「そう言うのは、柄じゃないので」
「先生はアンタみたいに、女性と見ると口説きまくるヤツじゃないわ」
天空から、ユミアの声が飛んで来た。
「なるホド、ユミア。やはりキミは、この男が好きなのか」
「ハアッ、ど、どうしてそうなるのよ!」
「どことなく雰囲気が、アイツに似ているからね」
「そ、そんなコト無いと思うケド。お兄様はもっと、カッコいいし」
確かに、それはその通りだ。
「アハハ。ルックスで言えば、かなりの差があるのは否めないか。アイツもバレンタインじゃ、相当数のチョコレートを抱えていたからね」
ボクの肩をポンと叩きながら笑う、久慈樹 瑞葉。
「ユミア。キミも知っての通り、天空のアイドルの大半はボクの手で集めた少女たちだ」
「それが、どうしたって言うのよ」
「実はね。ミク、フウカ、ミライ……イヤ、今空を飛び回っているアイドルの少女たちも、天空教室の候補だったのさ」
「そうだったの。でもアンタにしちゃ、まともな人選ね。天空教室のコたちはみんな、人をイジメたりしないコばかりだもの」
「言ってくれるじゃない、瀬堂 癒魅亜(せどう ゆみあ)」
「ユークリッドのアイドル教師として名が通っているからと言って、お高くとまっているね」
「エウクレイデス女学院で、もっと遊んであげれば良かったかしら。アリスみたいにね」
空中ステージのユミアを睨み付ける、ミク、フウカ、ミライ。
ユミアも彼女たち3人も、高校生の年代としてはエウクレイデス女学院に通っていた。
もっともユミアに関しては、相変わらず登校するのは稀(まれ)だったようだが。
「キミなら、気付いているかな。エウクレイデス女学院と言うのはだね……」
「古代ギリシャの偉大な数学者、エウクレイデス。ユークリッドは、その英語名ですよね」
「フッ、流石は教師と呼ばれるだけのコトはある。ご名答だ」
「そ、それじゃあ、エウクレイデス女学院って、まさか!?」
「そう。ユークリッドの出資で造られた、学校法人だよ。数学好きなキミに合わせて、アイツが創れと頼んで来たのさ」
エウクレイデス女学院は、今は亡き天才創業者が、可愛い妹のために設立したモノだった。
「お、お兄様が……わたしの為に?」
「キミだけの為と言うワケでも、無いんだ」
久慈樹社長は、ユミアの疑問符を否定する。
「教民法やユークリッドのせいで、職を失った教師や専門学校の講師たち。そんなヤツらを親に持つ、不幸な子供たちの受け皿として、エウクレイデス女学院は設立されたんだ」
「倉崎 世叛はやはり、ユークリッドが多くの人々に影響を与えてしまったコトを……」
「だろうね。ボクにとっては知ったことでは無いんだが、故人の意向なんでね」
寂しそうに微笑む、ユークリッドの創業者の1人。
「もしかして、天空教室のボクの生徒たちも、エウクレイデス女学院に?」
「イヤ、違うよ。エウクレイデス女学院はその性質上、教民法やユークリッドの影響を受けた家庭の少女たちをリストアップして、声をかけている。だが全員を受け入れられる、キャパは無いからね」
天空教室の生徒たちは、リストアップした名簿を元に集められたのだ。
「だが、72人のアイドルの半数近くは、女学院の生徒さ」
上を見上げると、黒い衣装に身を包んだ少女たちが、黒い翼を広げて宙を舞っていた。
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