天空のアイドルVS冥府のアイドル
「当初の予定では、彼女たち13人はそのままアイドルとしてプロデュースする予定だった」
ステージの上の久慈樹社長が、最初に思い描いていた計画を語る。
「天空教室で、授業など受けるコト無く……と言う意味でしょうか?」
「ああ、そうだとも」
派手なスーツを着た男が、両腕を高らかに挙げた。
「ボク自らが、プロフィールや過去を見て厳選した、13人の少女たち」
ドーム会場の外縁部が明るくなり、空中ステージが新たに幾つも出現する。
「彼女たちは誰もが、従来の義務教育が失われたコトで家庭が崩壊したり、義務教育の場である学校でイジメを受けたりで、心に何らかの傷を負っていた」
ユミアのを入れて、12の空中ステージがドームの円に沿って等間隔に並んだ。
「当初はそのまま、ユークリッドのネットアイドルとして売り出す予定だったのさ」
空中ステージには、アリスやタリアら生徒たちが1人ずつ立っている。
カトルとルクス、アロアとメロエは2人で同じ空中ステージに立っていた。
「旧来の教育や教民法によって、心に傷を負った彼女たちが、ユークリッドでアイドルとして成長する姿を見せれば、旧来の義務教育を否定するコトに繋がると、考えたのですね……」
「まあ、そんなところだよ。流石に優秀だね、キミは」
少しだけ渋い表情を浮かべる、久慈樹社長。
「だが、そこにキミが現れた」
ガラスの塔のパネルには、ボクと久慈樹社長の顔が映っていた。
「ユミアがボクを雇ったとき、イイ噛ませ犬が来たのだと思ったのでしょうね」
「もちろんさ。だからボクは、自分の計画にキミを付け加えるコトに決めたんだ」
優越感に浸る男と、唇(くちびる)を噛む男。
観客たちは、社長とボクの対決に集中し始めていた。
「つまりキミは、旧来の義務教育の象徴なんだ」
声高に宣告する、ユークリッドのオーナー。
その時を境に、ボクは観客たちから古き時代の教育を信奉する狂信者とされた。
「ネット教育VS旧来の義務教育か」
「面白そうな対決ではあるな」
「だけどオレは、アイドルのライブを見るために、会社を午前中で切りあげて来たんだぜ」
観客席から、期待と不満の入り混じった声が聞えて来る。
空中ステージに立ったままの生徒たちも、不安そうな表情を浮かべていた。
「彼女たちがテストを受けている間、観客たちはテストの様子を見守っているだけですか?」
「無論、そうも行くまい。だから、替わりになるアイドルを用意した」
「替わりになる、アイドル……ユミアやレノンたちのコトですか?」
「イヤ、違うね。ユークリッドのアイドルとして、新たな少女たちがデビューする」
久慈樹社長の背後のタワーが、虹色の光を放つ。
「ユミアたちが天空のアイドルなら、彼女たちは冥府のアイドルとでも命名しようじゃないか」
タワーのガラス面に映る、大勢のアイドル少女の姿。
その中には、見覚えのある顔もあった。
「卯月さんに、花月さん、由利さん!」
卯月 魅玖(うずき みく)、花月 風香(かずき ふうか)、由利 観礼(ゆり みらい)の、アイドルとしてメイクアップされた顔が映っている。
「そ、そんな……どうして!」
気になって空中ステージを見上げると、アリスが怯えていた。
3人から凄惨なイジメを受けた彼女は、動揺を隠せないでいる。
「久しぶりだね、先生」
「まさか、こんなカタチで再会するなんて、思っても見なかったよ」
「アリスやユミアの教師になってたなんて、ぜんぜん知らなかったしね」
振り返ると、塔の最下部にあるドアが開き、3人のアイドル少女が現れた。
「それは、ボクも同じさ。今のキミたちがの姿を、想像だにしていなかったよ」
3人のアイドルに、返答するボク。
同じボロアパートに暮らし、一緒にキアたちのライブを見に行った卯月さんに、花月さん、由利さん。
今はまるで別人のような瞳で、ボクを見ていた。
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