ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第15話

先生とステージ

 暗がりとなったドーム会場の、天窓から差し込む木漏れ日の中に、少女の影(シルエット)が現れる。
それは人工知能として生み出された、レアラとピオラの2人だった。

『本日は、ゲリラライブに集まっていただき、まずは感謝をするわ』
『実は今日のライブは、2部構成にわかれているのよ』
 場内アナウンスのときと比べ、観客に対し少し高圧的な2人。

 デビューライブの、禍々しい悪魔の衣装とは異なり、今は鮮やかな白いドレスを着ている。
ドレスは左右非対称なデザインで、所々が赤みがかった透明になっていて、内部の肌が透けている。

『ライブに先だって、久慈樹社長から話があるのだそうよ』
「人間の社会では、社長の長話は嫌われるのだそうね。手短に、済ませてちょうだい』
 2人のウィットに富んだトークに、笑いが起きる。

「そうだぜ、社長さんよ。手短に、頼むわ」
「オレたちは、アンタの長話を聞きに来たワケじゃないからよ」
「ユークリッド・ディーヴァ(女神)の、ライブを見に来たんだからな」

「ヤレヤレ、あの2人にも困ったモノだね」
 ボクに向かって、肩を竦(すく)めてみせる久慈樹社長。
重い腰を上げ、再びライブステージ中央にそびえる、ガラスの塔の袂に向かって行った。

「皆さん、ようこそ……と言うのは抜きにして、手短に話そうか」
 塔のガラスに、久慈樹社長の様々なアングルからのカットが映し出される。

「今日のゲリラライブの趣旨は、『テスト』だ」
 社長の突然の表明に、観客席は静まり返った。

「キミたちの応援しているアイドル達には今日、歌を歌って貰うのではなくテストを受けて貰う」
 騒めき始める、観客席。

 ボクや生徒たち、久慈樹社長の間では明示してあった契約内容も、ファンの人々にとっては今初めて示される内容なのだ。
観客たちは、互いに顔を見合って意見を交わしていた。

「皆さんもご存じの通り、ユークリットは教育動画を最初のコンテンツとして世の中に提供し、それが世間に受け入れられて今の地位を得たのです。既存の義務教育を破壊したのは、我々と言っても過言では無いでしょう」

 ガラスの塔に、今までユークリッドがアップした様々な教育動画が流れ始める。
その中には、アイドル教師ユミアの笑顔もあった。

「そのユークリッドが、半年ほど前に新たに始めたコンテンツの1つが、天空教室と呼ばれるモノです。天空教室は、既存の義務教育のような教室に生徒を集め、先生が教壇に立って授業をする形式でした」

 ガラスの塔の表面は、今度はボクや枝形先生、マーク先生ら、ユークリッドの教師たちが授業をする風景に切り替わる。
自分で認めるのも問題かも知れないが、どことなく前時代的な映像にも見えてしまった。

「ではナゼ、ユークリッドは既存の義務教育のような動画を流したのか?」
 集まった観客たちに問いかける、久慈樹社長。

「それな。オレも前々から、不思議に思ってたんよ」
「なんで教育動画をネットで流してるユークリッドが、今さら義務教育みてェな動画流すのかってな」
「それそれ、ネットでも話題になってたよね」

 観客席から聞こえて来る声は、予想通りのモノだった。
ボク自身もその答えに疑問を持ち、社長本人に直接聞いてみたいとすら思っている。

「今、彼女たちはアイドルも兼任して貰っているワケだが、本職としては天空教室の学生なのだよ」
 久慈樹社長は、ボクに視線を向ける。
ステージに、上って来いと言わんばかりだ。

「ここで、逃げるワケにも行かないか……」
 ボクは意を決して席を立ち、ステージに続く道を歩き始める。

「そして彼が、彼女たちを指導する先生。名を……」
 白い花火が道の左右から吹き上がり、久慈樹社長の声すら打ち消してしまった。

 久慈樹社長の、横に並ぶボク。
振り返ると、何層ものドームの席を埋める観客たちの姿が、そこにあった。

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