ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第13話

ガラスの虫かご

 弁護士のタマゴと、世界を股にかけるIT企業トップとの対決は、人生経験の差からか久慈樹社長に軍配が上がった。

「だけどその企業も、よく違法な営業をして置いて、裁判に勝てたわね」
 納得の行かないユミアが、なおも喰い下がる。

「男はね、ユミア。務めていた企業を、SNSなどでブラック企業と激しく罵(ののし)ったの。それを企業側が、名誉棄損として訴えたのよ」
 それに答えたのは、久慈樹社長では無くライアだった。

「ブラック企業をブラック企業と言って、なにが悪いって言うの?」

「裁判所は、企業の違法営業を認めつつも、完全にブラック企業とまでは言えないという、微妙な判決を降した。心が折れたのか、男は上告を断念したわ……」
 弁護士のタマゴは、申しワケ無さそうに顔を伏せる。

「流石は、弁護士のタマゴだ。過去の判例は、履修(りしゅう)済みと言うコトだね」
 ユークリッドの社長は、わざとらしく手を叩いてライアを褒め称えた。

「過った過去の判例は、いずれ正さねばなりません」
「キミが、正してくれるとでも?」
「将来的には、そうありたいと思っています」

「キミの正義が、いつまでねじ曲がらずに居られるか見物だね」
 久慈樹社長は、ボクたちに背中を向ける。

 新兎 礼唖(あらと らいあ)の、弁護士にかける決意は本物なのだろう。
その決意が歪まないように、ボクは願った。

「さて……ボクたちはそろそろ、ライブ会場へ移ろうじゃないか」
「え?」
 久慈樹社長のいきなりの提案に、驚いてしまうボク。

「オイオイ。レディの着替えを覗く気かい、キミは?」
「い、いえ。そのような破廉恥(はれんち)なマネは、しませんよ」
 慌てて控室の前から、走り去る。

 ライブ会場に入ると、ザワザワとした声がそこら中から聞こえて来た。
辺りを見渡すと、4方8方を取り囲むスタンドに、観客たちが入り始めている。

「大した『試験会場」ですね」
 ボクは、嫌味を織り交ぜて言った。

「気に入って貰えて、なによりだよ。これだけの観客に囲まれながら試験を受けるなんて、前代未聞だろうからね」

 そりゃあ、前代未聞でしょうとも。
今まで誰が、アイドルのライブステージで試験を受けたと言うのか。

「テストを受けるのは、キミではなくキミの生徒たちだ」
 硬くなったボクの肩を、ポンと叩く久慈樹社長。

「もっとも生徒たちの1人でも落第点を取れば、キミはユークリッドを去るコトとなる。キミにとっても、実質テストと変わらないと言うのは、理解できるのだがね」

 天使のような笑顔を見せる、久慈樹社長。
その笑顔の裏側に、まだ底知れぬ悪意が潜んでいるように思えた。

「さて、キミには生徒たちが試験を受ける様子を見られるよう、特等席を用意して置いた。もっとも、デビューライブのときと同じ席なんだがね」
 以前と同じ、ステージの真正面の席に案内される。

「ここって、前と同じ席なんですか。かなり、場所が違うような」
「イヤ、同じではあるさ。ただ、あのときとはセットやらステージやらの配置が、まったく異なるからね。なんと言っても、今回のゲリラライブのメインは、テストなのだから」

 久慈樹 瑞葉の見上げる中央ステージに、巨大なガラス張りの塔が建っている。
塔は円筒形で、明らかに天空教室の入っている超高層タワーマンションを模していた。

「ここが、キミの生徒たちがテストを受けるステージだ。どうだい、相応(ふさわ)しいだろう?」
 隣の男が、ボクの顔を覗き込んでいる。

「とてもそうは、思えませんが……」
「これでも、テストを受ける環境を整えようと、善処はしているんだよ」
 社長は、ステージの塔の袂(たもと)に歩み寄って、説明を開始する。

「塔を囲むガラスは全て完全防音で、観客席の大歓声すら遮断する。それに外から中の様子は確認できるが、中から外の様子は見えない設計になっているんだ」

「マジックミラーって、コトですか。まるで、取調室みたいですね」
「ボクとしては、虫かごに近いイメージだったのだがね」

 ムッとする、ボク。
けれども久慈樹社長の悪意は、まだまだ序の口に過ぎなかった。

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