ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第26話

最終(ラスト)ステージ

 冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)の、3人のアイドルが歌う、ドゥームメタル。
スピードメタルとは正反対のスローテンポの曲が、会場の観客たちを魅了して行った。

「ミカドはね。アイドルとしては、本格的な歌唱力を持っているんだ。サトミとレインも、それぞれ独特の声質をしていてね。かつて所属していた会社でも、順調に支持者を獲得していたようだ」

「それが解かっていながら貴方は、彼女たちの会社を買収したのですか」
「ビジネスは、スピードが勝負なのだよ。成長が遅れれば、ウチが同業大手や外資に買収されていたさ」

 ボクには、久慈樹社長の言葉が真実なのかは、判断できない。
けれども、実際にユークリッドを巨大企業の育て上げた男の言葉を、無下には否定できなかった。

「音をあえて外しているのか、なんだか不快に感じる曲ですね」
 ライブ会場には、ボクたちの会話などまったく聞こえないくらいの大音量で、カーズ・ド・ダークネスの不協和音が響き渡る。

「ああ。少なくとも昨日今日、アイドルを始めた人間に歌いこなせる曲じゃないさ」
「まるで、貴方に向けた怨嗟(えんさ)の声にも、聞こえるのですが」

「おもしろいコトを言うじゃないか、キミは。だが、彼女たちが恨みを向けるのは、なにもボクだけじゃない。ユークリッドに関わる者全て……キミや、とくにユミアに対してね」

 久慈樹社長が、ドームの上空に12等分に配された、天空ステージを見上げた。
小さなステージで、ユミアが怯えた顔をしている。

「さて、キミの生徒たちには、テストの準備に入って貰おうじゃないか」
「……え?」

「オイオイ、忘れてしまったのかい。今日のステージは、キミの生徒たちが学力テストを受ける、試験会場でもあるんだぜ」
 ボクは、ハッと我に還った。

「大音量の爆音が流れるドーム会場で、彼女たちにテストを受けろと言うのですか?」
 ルシファー、リヴァイアサン、ベルフェゴールをモチーフにした、ミカド、サトミ、レインの曲が終わり、会場から拍手や歓声が沸き起こる。

「会場がココであるのは、間違い無いのだがね。心配せずとも、後ろにそびえる塔の中は完全防音さ」
「ガラスの塔の中が、生徒たちの試験会場だと?」
「この塔は、天空教室のある超高層マンションを模しているんだ」

「おあつらえ向きと、言うコトですか」
 久慈樹社長の答えは、ニヒルな笑みだった。

 時計の針盤のように配された12の天空ステージが、中央ステージのガラスの塔へと集まって行く。

「流石はユークリッドの、ライブだぜ」
「演出の1つ1つが、メチャクチャ凝ってやがる」
 観客席からは、お気楽な賞賛の声が聞こえて来た。

「いよいよ、最後の試験……か」
 いつの間にか、固唾を飲んでいるボク。
握った手の中も、汗でビッショリだった。

「先生、心配しないで。みんな、一生懸命頑張ったんだから!」
 天空から、ユミアの振り絞った勇気の声が聞こえる。

「そうだぜ。アタシだってメリー先生に、たくさん勉強を教えてもらったんだ。な、アリス」
「そ、そうなのですゥ」
 レノンとアリスも、決意を固めたみたいだ。

「わ、わたくし達も、全力は尽くしますわよ。ね、メロエさん?」
「そ、そうですわよ、お姉様。タブン、大丈夫ではないかと思いますわ」
 ゴージャスボディな双子姉妹の、不安そうな声も聞こえて来る。

「ボ、ボクらも、タブン平気だよね、ルクス?」
「ウ、ウン、カトル。それなりに、頑張ったモン」
 もう1組みの双子姉妹も、心もとない返事だった。

「わたしは教師を目指す者として、恥ずかしい点数は取れないわね」
「そう言うコトならメリー、わたしも弁護士を志す者として、負けられないわ」
 メリーとライアも、天空ステージから、ガラスのタワーの最上階に開いたガラスの扉に入って行く。

 いよいよ、天空教室の最終(ラスト)ステージが、幕を開けた。

 前へ   目次   次へ