学力テストの意義
「それでは、本日のメインイベントだ」
冥府のアイドル(ベルセ・ポリナー)たちに代わって、ステージに立つ久慈樹 瑞葉。
「今日、このドーム会場に集った諸君は、ユークリッドのゲリラライブと聞いて、天空のアイドルたちのライブを見るつもりだったのだろう。残念だが、今日のライブのメインは学力テストなのだよ」
「だからオレらは、学力テスト受けてるところなんか見たくねェって」
「こんな立派なドーム会場で、アイドルがテストを受ける意味がわからん」
「冥府のアイドルでいいから、アイドルのステージを続けてくれよな」
直ぐに、観客席から否定的なブーイングが沸き上る。
「オイオイ、待ってくれ。ユークリッドの本業は、教育だと言うコトは諸君らも知っているハズだ。それにスポーツを行う目的で建てられたドームや球場で、アイドルのライブを行うコトもあるだろう。逆もまた、しかりだ」
「そ、そりゃそうなんだが」
「でもドーム会場でテストなんかして、誰得よ」
「そうだ、そうだ!」
「モチロン、諸君らを飽きさせない仕掛けはしてあるさ」
久慈樹社長が両手を広げると、ステージが暗転しガラスの塔が光り輝く。
塔の表面のパネルには、ボクの生徒たちの緊張した顔が映っていた。
「今から始まるテストは、天空教室の存続を賭けたモノになる。彼との約束でね」
ユークリッドの若きオーナーは、ボクを手招きする。
「それは違いますよ、久慈樹社長。ボクは、ボク自身の進退を賭けたんです」
「おっと、そうだったね。だが天空教室は、キミが命名しキミが最初に生み出した教室だ」
「はい。ですが今は、生徒たちを導く先生の数も増えました。例えボクが居なくなったとしても、天空教室は続くでしょう」
「どうかな。ボクは、そうは思わんのだがね。天空教室の中心は、あくまでキミだ。太陽が無くなれば、そこに集った星座たちも四散するだろうよ」
ボクの見解を否定する、久慈樹 瑞葉。
ほくそ笑みながら、ボクの肩に手を置いた。
「条件は、生徒たちの誰もが、貴方が標準の学力だと思うラインをクリアするコト。それで、間違いありませんね?」
また条件を追加されては敵わないと、念を押すボク。
「ああ、間違いないさ。キミの、旧態然とした天空教室での教鞭で、彼女たちがどれだけの学力を身に付けられたか、今から明らかになる」
「全力を尽くしたとは言えませんが、ボクは生徒たちを信じてます」
「フフ、まあいいさ。その前に、言って置きたいコトがある」
「なんでしょうか。ここに来て、まだ条件を追加すると?」
「そんなコトは、しないさ。ただ今回のテストの意義を、ハッキリさせて置きたくてね」
「条件は、ハッキリしているハズですが?」
「それは、ボクとキミとの間での話だ。今日、このドームに集った観客たちにしてみれば、なんのテストかさっぱりだろう?」
「それは……そうですが……」
観客席を見ると、久慈樹社長の見解に賛同している顔が多かった。
「諸君に今回のテストの意義を、伝えよう。これは旧来の教育と、ユークリッドの新たな教育の正当性を賭けた戦いだ」
社長の宣言に、騒(ざわ)めく会場。
「学校と言うシステムに支配され、教室と言う閉鎖空間に押し込められて勉強を強いられるコトに、ボクやアイツは疑問を持った。そこで生まれたのが、ユークリッドさ」
「そうだよな。毎日、学校に通わなくたって、ユークリッドの教育動画で勉強できるし」
「学校もまあ、気の合うヤツばかりなら良いケドよ」
「最悪の場合、不良とかと1年、同じ教室で過ごさなきゃならないって、マジあり得んわ」
会場からは、ユークリッドの教育動画に賛同する声が多く挙がる。
「旧来の教育の象徴がキミなのは、述べた通りだ……が。フェアでは無かろう?」
「……え?」
「つまり、キミの生徒たちだけがテストを受けるのは、フェアじゃないと言っているのだよ」
ニヤッと笑う、久慈樹社長。
「実はね。冥府のアイドルたちにも、事前に今日のテストと同じものを、受けさせて置いたのさ」
ボクは、その言葉に戦慄を覚えた。
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