ベルナール・フィツ・べリック
イヴァンさんは、強靭な体躯や野性的な嗅覚で勝負するタイプのストライカーであり、トラップなどの技術はそこまで高くない。
ロランさんからのパスを胸トラップしたが、ボールは足元には落ちず、少しズレたところに落下した。
よし、このボールだ!
ボクは、そのボールに走り込んでシュートする。
「やらせるかよ!」
けれどもヴァンドームさんが、一早く気付いて脚を伸ばした。
……あ!
間に合わないと思ったのに、シュートはヴァンドームさんの脚に当たって大きく宙に舞う。
ヨーロッパトップリーグの1つであるフランスリーグを戦って来ただけあって、そのカバーリング能力や守備範囲の広さは流石の一言だ。
「ナイスディフェンスだ、ヴァンドーム」
落ちて来たボールは、ヴォーバンさんが難なくキャッチする。
着地した勢いのまま、パントキックで前線へとボールを蹴り出す。
「マ、マズい。戻れ!」
オリビさんが叫んだ。
グングンと伸びるボールは、前線に張るランスさんの元へと飛ぶ。
「よし、これでやっとチャンスが来たぜ」
ボールをトラップし、ドリブルを開始するランスさん。
けれども、その前にリナルさんがマークに付く。
「控え組風情が、オレを止められると思うな」
「失点をしてしまったのは、オレの判断ミスのせいだ。ここは、確実に抑える」
得点を取ろうと焦るランスさんに対し、リナルさんはゆっくりと時間をかけて突破を防いだ。
「こっちだ、ランス!」
アルマさんが手を挙げたが、あくまで単独でのドリブル突破にこだわるランスさん。
その間にも、蒼いビブスのボクたちは、守備陣形を再構築するコトが出来た。
「なにをやっている、ランス。見す見す、チャンスを潰しているのだぞ」
ベンチで苛立つ、壬帝オーナー。
「ナイス守備だ、リナル」
オリビさんも加わって、ランスさんを追い込む。
「ク、クソッ!」
仕方なく、ボールを後ろに戻すランスさん。
「ヤレヤレ。サッカーと言うスポーツは、攻撃も守備も1人じゃできないよ」
ボールを受けたのは、ヴィラールさんだった。
再び前線へと押し上げて来たリベロは、ボールを右サイドに展開する。
「良いコト言うじゃないか、ヴィラール。だがオレも、少しはアピールしないとな」
ボールを受け、ライン際を疾走するべリックさん。
脚が特別速いワケではないケド、スライドが長く突進力がある感じだ。
「来い、べリック!」
ランスさんが、ペナルティエリア中央でボールを呼び込む。
けれどもオリビさんとリナルさんが、そのままランスさんのマークに付いていた。
「行けるか!」
右サイドバックのべリックさんが、サイドからアーリークロスを上げる。
「べリックのヤツ、どこに上げてんだ!」
強烈にインパクトされたボールは、ランスさんからはかなり距離のある軌道を描いた。
「違う、シュートだ!」
ロランさんが、叫ぶ。
……でも、時すでに遅かった。
ボールは右側にスライドし、クロスに反応するために前に出ていたキーパーの左手側を抜き、ゴールの右サイドネットを揺らしていた。
「流石は、べリック。フリーキックじゃなくとも、美しいゴールだ」
ヴィラールさんが、べリックさんに近寄ってハイタッチをかわす。
「クソッ。べリックのヤロウ、オレを囮(おとり)に使いやがって」
同点に追いつけたにも関わらず、苛立つランスさん。
アーリークロスと思いきや、直接ゴールを狙って来たべリックさん。
現代サッカーに置けるサイドバックは、ロングレンジでも沈めてしまう能力を持っているんだ。
スコアボードに、3-3の数字が並ぶ。
ゲームは、振り出しに戻ってしまった。
ボクたちが、センターサークルでボールを蹴り出したと同時に、後半終了のホイッスルが鳴る。
紅白戦にしては珍しく、延長戦の設定があるゲーム。
「フウ、流石に一筋縄ではいかないか」
ボールを受けただけのロランさんが、嬉しそうに言った。
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