選ばない男
「マーズ軍のサブスタンサーが、ナゼここに!?」
水色のサブスタンサーを操りながら、メリクリウスさんが叫んだ。
「油断するな、メリクリウス。マーズは今や、我らに敵対する存在だと言うコトを忘れるな!」
割れたミラーユニットを切り離し、身軽となった黄金のサブスタンサーを駆る太陽神が、味方に警戒を促(うなが)す。
「ええ、そうですね、アポロ。マーズが率いた火星艦隊は、宇宙斗艦長の艦隊との戦闘で壊滅的打撃を受け、艦艇の殆どが破壊されました。その艦載機であるサブスタンサーも、艦隊と運命を共にしたハズですが……」
けれども現実には、火星の空に無数のサブスタンサーが飛来し、時の魔女が放ったQ・vic(キュー・ビック)を撃破し始めた。
「どうやら、完全に敵というワケでは無いようですね」
ボクは、2人の反応を観る目的もあって、問いかける。
「例え敵であっても、敵同士潰しあってくれるのであれば、我らにとっては又と無い好機よ」
「宇宙斗艦長。この隙に、彼女を仕留めましょう!」
念を押す提案を聞きいたボクは、燃え盛る街の上空を漂う異形のサブスタンサーを見上げた。
確かに撃破され続けるQ・vicの体制を立て直すためなのか、Q・vava(クヴァヴァ)本体からの攻撃は止み、動きも止まって見える。
「そうですね……本体に当てなければ、クーリアも助かるかも知れない」
ボクは、表面上は2人に従うフリをして、Q・vavaに接近した。
「マーズめ。このわたくしに、敵対すると言うのですか……どこまでも、愚かな!」
アクエリアス区の空を飛ぶ、Q・vavaのコクピットの中で、怒りを露(あらわ)にするクーリア。
やはり、ゼーレシオンの接近には気付いていない様子だ。
「お前の脆弱なサブスタンサーなど、わたくしの敵では無いのですよ!」
街のあちこちで、一方的に攻撃をされ続けていたQ・vicが反撃を開始し、グェラ・ディオー・シリーズのサブスタンサーたちと、激しく干戈を交える。
クーリアの予想に反して、尖兵同士の戦闘は拮抗した。
アクロポリスの12の区画のあちこちで、局地戦が発生する。
その間にもゼーレシオンは、Q・vavaの懐(ふところ)まで近づいていた。
「何をしている、キサマ。さっさと秘蔵の兵器を、使わんか!」
「クーリアに向けて、ブリューナクを使う気なんてありませんよ!」
既にQ・vavaの間近まで接近していたボクは、本音を暴露する。
「おのれ、古代人めが……このアポロを、欺(あざむ)きおったか!」
「アポロ、ここは艦長に任せましょう。あるいは、上手く行く可能性もあります」
太陽神は、メリクリウスさんに諭されて、怒りを鎮めた。
「止めるんだ、クーリア!」
ボクはさらに接近し、Q・vavaの上半身に取りつくコトに成功する。
「宇宙斗艦長!?」
ゼーレシオンの触角が、クーリアの綺麗な声を鮮明に捉えた。
「艦長と言えど、女性にいきなり抱きつくなど、無礼でしょう!」
ヒステリックな声と共に、大きな鎌(サイズ)を持った腕が、張り付いたゼーレシオンを引き剝がそうと試みる。
「フラガラッハッ!!!」
ボクは、叫んだ。
高層ビルさえ両断する巨大な鎌をも切断する、全てを切り裂く剣。
3本の腕のうち2本が、根元から斬られて街へと落下して行く。
「宇宙斗艦長、貴方はわたくしを見てくれているのですか!」
「当然だろう。キミは、ボクたちの仲間だ」
Q・vavaは、機体の前後左右にあるマントのようなパーツを展開し、ゼーレシオンを振り落とそうとした。
「そうやって貴方は、なにも選ばない。宇宙斗艦長は、選ぶコトを恐れているのです」
「ボクが……選ぶコトを!?」
「わたくしも、そうでした。自分の運命を決めるのは、いつも他人ばかり。ですがそれも運命と、諦めておりました」
「クーリア……」
ボクは、マント状のパーツにフラガラッハを突き立て、落下を回避する。
「ですが時の魔女は、わたくしの捕らわれた心を解放してくれた。今のわたくしは、何者にも縛られない自由を手に入れたのです」
「自由……これが自由だって!?」
ゼーレシオンは体制を立て直すと、Q・vavaに刺さったフラガラッハを抜いた。
「人が大勢、死んでいるんだぞ。こんなのが、自由なのか……他にもっと、やり様が……」
「やり様は、あったのかも知れません。ですがわたくしは、この道を選んだのです……」
「違う、キミが選んだんじゃない。時の魔女が、キミを狂わせたんだ!」
フラガラッハが、Q・vavaのコクピット装甲を切り裂く。
「宇宙斗艦長……やっとわたくしを、見つけてくれましたね」
切り裂かれた装甲の向こうで、クワトロテールの髪を靡かせる美しい少女。
「やっと、貴方は……」
その瞳は、紅く輝いていた。
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