思わぬ援軍
「クーリア、止めろ。これ以上キミが、罪を重ねちゃダメだ!」
ボクの叫びも虚しく、炎に包まれ灰塵と化す、アクロポリスの街のアクエリアス区。
みずがめ座の名が示す通り、街には水路が張り巡らされ、水の上にはゴンドラが浮かんでいる。
けれども、ヴェネツィアをモチーフとした街も、ゴンドラも炎に包まれ、水面が真っ赤に揺らいでいた。
「もはやクーリアを討つより他に、この惨状を止める方法が無いのだ!」
「我ら3機で、なんとか切り崩すしか無いんです、宇宙斗艦長!」
ゼーレシオンの長い触角が、アポロさんとメリクリウスさんの声をキャッチする。
「それだって、簡単なコトじゃ無いでしょう。近づきさえすれば、クーリアをアイツから引き吊り出すコトだって……」
「近づく必要は、無い。我がアー・ポリュオンの、ヘリオス・ブラスターで撃破する」
獅子のタテガミを持った黄金のサブスタンサーを駆る、アポロが言った。
「待って下さい、アポロ。こんな街中で、ヘリオス・ブラスターを使えば、大勢の民が……」
「承知の上だ。これ以上、手をこまねいていれば、さらに多くの命が失われる。多少の犠牲は、この際止む終えまい!」
30メートルを超える黄金のサブスタンサーが、Q・vava(クヴァヴァ)から一定の距離を取る。
背中から、9枚にも及ぶ黄金の円盤が機体の上下左右に展開され、リングを形成した。
「アポロ、アナタのサブスタンサーの能力は、解っているのよ。させるモノですか!」
異形のサブスタンサーは、マントのパーツからフォトンレーザーを一斉に照射する。
その攻撃は全て、アー・ポリュオンに向けられた。
「クッ……グゥッ!!」
黄金のサブスタンサーは、本体こそ大したダメージを負はなかったが、展開した黄金の円盤は、ことごとく砕かれる。
「集光ミラーが……ただでさえ火星は、太陽の光が弱いというのに!」
切り札の兵器を封じられ、焦る太陽神。
「ヘリオス・ブラスターが撃てず、ボクの部下も全て撃墜されてしまいました。もはやアレを止める手立ては宇宙斗艦長、アナタのサブスタンサーを置いて他にありません」
「無理です、メリクリウスさん。いくらゼーレシオンだって……」
「我々は、確認しているのですよ。先の木星圏のアーキテクターの反乱で、敵の首謀者のアーキテクターを撃破した兵器の存在を」
「え……!?」
ボクは、焦りを感じた。
確かにゼーレシオンには、フラガラッハを凌駕する破壊力を持った兵器が、搭載されている。
「アレは……ダメです。使えません!」
ボクの脳裏に過る、小惑星パトロクロスでの戦闘光景。
ブリューナクの真っ白な光に呑まれる、イーピゲネイアさんのアルティミア・カリストー。
身を挺し護ろうとした、デイフォボスさんのヘクト・ライアー。
神々の雷は全てを破壊し、アーキテクターの反乱を終結させた。
「今さら怖気づいたか、古代人!」
「ナゼです、宇宙斗艦長!?」
アポロさんとメリクリウスさんが、ボクに兵器の使用を要求する。
「ブリューナクは、危険過ぎる。あんなモノを、クーリアに使ったら……」
「他に方法が、無いんです」
「迷っていられる時間など、我らに与えられてはおらん!」
「だ、だけど……」
ボクが迷いを断ち切れないでいるその時、いきなり上空からビームが降り注いだ。
「な、なにが起きたと言うのだ!?」
「み、見て下さい、アポロ。Q・vic(キュー・ビック)が次々に、撃破されて行ってます」
メリクリウスさんの言った通り、降り注いだビームによって、街を襲っていた四角い浮遊物体は次々に撃破される。
「ペンテシレイアさんたちが、来てくれたのか!?」
けれどもゼーレシオンの巨大な目が捉えたのは、アマゾネスのアーキテクターでは無かった。
「違いますよ、艦長。アレは、マーズ軍のサブスタンサーたちです!」
「な、なんですって!?」
キュー・ビックたちを撃破したのは、火星圏の会戦でマーズの軍が使った、新型のコンバット・バトルテクター・シリーズである『グェラ・ディオー』だった。
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