ボールボーイたち
荒れ果てたジャガイモ畑みたいなピッチに、戻ったボク。
「御剣くん。どうやら相手も、選手交代のようですね」
柴芭さんが、相手のベンチに視線だけやりながら言った。
見るとキャプテンの岡田さんが、交代の指示を出している。
「中盤を削って、棚香のポジションに渡辺を入れる。右サイドも限界だな、藤田が入れ。中盤も２枚替える。鬼兎、彩谷、お前らは桃井たちと交代だ」
「そんな……ボクはまだ、やれます！」
「ああ、どこがだよ。完全に、体力が尽きてるじゃねェか」
守備をしない前線を抱えたチームにあって、ワンボランチの桃井さんは明らかに限界だった。
「しっかし大丈夫なのかよ、岡田。コイツら全員、実戦経験のねェ１年だろ」
「しゃ～ねェだろ。実戦経験のある２年は、全員使い物にならねェコトが証明されちまってんだ」
仲邑さんの指摘に、苛立ちをぶつける岡田さん。
「すまん、千葉。ボクは、ここまでだ」
「いや、お前が居なかったら、こんなスコアじゃ収まらなかった。桃井、後は任せろ」
千葉委員長に肩を叩かれ、ピッチを去る桃井さん。
「ボランチのヤツも交代か。相手はキープレーヤーが、かなりピッチを去ってるな」
「おいおい、ボールボーイをやってたヤツらを、入れてるぞ。しかも相手は１０人だ」
「中盤の枚数じゃ、ウチが倍以上……この勢いのまま、一気に試合を決めちまおうぜ！」
トリプルボランチとして入った、汰依（たい）さん、蘇禰（そね）さん、那胡（なこ）さんの３人が、ボクや柴芭さんに向かって気合を入れる。
「ええ、そうですね。試合には、流れと言うモノがあります」
うん、確かにそうだ。
決めきれるときに決めきれなくて、流れを持ってかれた試合を何度も見たし。
『ピ――――ッ！』
今日、何度目かのホイッスルが鳴り響く。
曖経大名興高校のボールで再開された試合は、仲邨さんが前線に持ち上がろうとするも、その進路を３人のボランチがことごとく防いだ。
「チッ、桃井まで居なくなったんじゃ、中盤でゲームメイクもままならなん。ここは一端、下げるしか……アッ！？」
「それは、見え透いてますね」
仲邨さんのバックパスを、完璧に読んでカットする柴芭さん。
「仲邨 叛蒔朗は、簡単に抑えられるレベルの選手じゃない。汰依くん、蘇禰くん、那胡くん……派手さは無いものの、中々に高い能力を持ってますね」
味方を讃えつつも、そのままボールを持ちあがる。
その進路には、入ったばかりの２人のボランチが待ち構えていた。
「さっき入った、ボールボーイの２人か。こりゃ柴芭なら、楽勝やな」
「ボールは、任せたであります！」
金刺さんと杜都さんは安心して、左右に展開する。
「問題は、この先……リベロの斎藤 夜駆朗と、あの長身キーパーをなんとか……！？」
「おんし、油断し過ぎじゃきィ」
やる気無さそうに柴芭さんにプレスをかけたボランチの１人が、柴芭さんからボールを奪った。
「なんやって、柴芭がボール奪われよったで！？」
「マズイであります。カウンターを、警戒せねばであります！」
ボランチ気質の杜都さんが、慌てて帰陣する。
けれども、ボールを奪った選手はナゼだか動かない。
不信に思ったのか、柴芭さんも棒立ちになっている。
「オイ、彩谷（さいたに）。ボールを取ったんなら、さっさと攻めろや」
ボランチに入った、もう１人の選手が言った。
その選手の方が大柄で、威風堂々とした雰囲気をしている。
「そがぁほたえなや、やかましいわ、鬼兎（きと）は」
彩谷と呼ばれた選手は、黒いロン毛のチリチリなクセ毛を掻き上げ、気怠そうに欠伸をしながらドリブルを開始した。
「メチャクチャ遅い、ドリブルやな。やる気あんのか？」
「ならば自分が、ボールを奪うであります！」
杜都さんが帰陣するのを止めて、彩谷さんに向って強烈なスライディングタックルを浴びせる。
「ホワァッ、大怪我するとこやったき！？」
彩谷さんは、ヒョイッと跳んでタックルをかわした。
「ならば、ボクが奪い返す！」
今度は柴芭さんが、後ろから身体を入れてボールを奪う。
「おんしゃ、やんのォ。じゃが……」
彩谷さんは、柴芭さんが奪ったボールに足を延ばし、踵（かかと）でバックパスにした。
「まったく、なにをやっている。お前には任せては置けん。やはりオレが、持ち上がるぞ」
バックパスを受け取ったのは、鬼兎と呼ばれた選手だった。
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