ラノベブログDA王

ブログでラノベを連載するよ。

王道ファンタジーに学園モノ、近未来モノまで、ライトノベルの色んなジャンルを、幅広く連載する予定です

この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第18話

f:id:eitihinomoto:20200806163558p:plain

男(ヤロウ)同士の会話

 レオラとピオラの失踪事件から数日が経過し、ユークリッターに流れる話題は、彼女たちの電波ジャックによるゲリラライブに集中する。

「テレビの情報番組の内容も、ネットに追従した番組構成になってるな。お陰でボクの方のマスコミ取材は、多少軽減された感がある。有難いコトだ」
 かつて芸能一家が暮らしていた家で、ボクは優雅にインスタントコーヒーを淹れた。

「今日は、日曜日……久しぶりの休日だ。たまにはゆっくり……」

『ピンポーン、ピンポン、ピンポン、ピンポーン!』
 ボクの1日の予定をジャマするかのように、けたたましく鳴り響くインターフォン。

「ヤレヤレ、またマスコミの取材依頼か。もしくは、新聞や投資の勧誘かな?」
 インターフォンを復旧させたのは早急だったと後悔しつつ、ボクはドア穴から外の様子を確認する。

 すると玄関前に、野球帽を深く被った怪しい男が立っていた。
顔はサングラスとマスクで覆われ、キョロキョロと不審な動きを繰り返している。

「なんだ、お前か。さっさと入れよ」
 ボクは不審な男を、家の中へと招き入れた。

「よくぞオレと、見破ったな」
 男は、帽子とサングラスを脱ぎ捨てながら、ウチのソファに偉そうに座る。

「何年も、安いラーメン屋に通った仲だ。見飽きるくらいにな」
 ヤツの前のテーブルに、ホットココアを置いてやった。

 思えば目の前の男とは、今年の夏まで戦友だった。
大学を卒業したものの無職だったボクたちは、乗り遅れた就職戦線に2人だけの部隊で挑んだモノだ。

「さて、ウチになんの用だ、不審者」
 ボクも目の前のソファーに腰かけ、飲みかけていたコーヒーを飲む。

「テレビで見て知っちゃあいたが、お前、立派な家に住んでやがるな」
「分不相応とは、自分でも思っているよ。ワケ有りでな」
「どんなワケ有り物件だ、聞いてやろうじゃないか」

「ここは元々、芸能一家が住んでいた家だ。芸能界で成功し、これだけの家を建てたんだ。だけど時代がテレビからストリーミング動画の時代になって、成功した芸能一家は四散した。この家で育ったアロアとメロエの双子姉妹は、ボクの生徒としてユークリッドに居るよ」

「世知辛い話しだねえ。ま、テレビで話題になってたから、おおよそのワケは知っちゃあいたが……その芸能一家が住んでいた物件を、お前が安く買い叩いたってワケか」


「ここは賃貸契約だ。実際に買い叩いたのは、ボクの生徒の1人である、テミルの実家がやってるプニプニ不動産だがな」
 知っているなら聞くなよと思いつつ、今度はボクが攻勢をかける。

「で、お前こそボクになんの用だ。来るのなら、事前にアポぐらい入れろ」
「ま、たまには驚かせてやろうかと思ってな」
「要らぬ気遣いだ。で?」

「ああ。実はウチの会社、ユークリッドから依頼が来てな」
「マ、マジか?」

「マジだ。内容は、今回売り出すアイドルグループたちに、楽曲を提供するコト。しがないソシャゲ音楽の下請け会社に、随分な依頼だよなあ?」

「ま、まさかとは思うが、ボクが絡んで仕事が発注されたなんてコトは無いよな?」
「依頼はオレに、ピンポイントだ。久慈樹社長の、ご指名らしい」
「それじゃ、本当にボクが……」

「ビッグな仕事を有難うと、礼を言うべきところなんだろうがな……にしたって、今をときめくアイドルユニットの楽曲かよ。ビッグが過ぎるだろうに」
 好物のココアを飲みながら、愚痴を垂れる悪友。

 思えば、コイツと通ったラーメン屋の間仕切りには、いつも古びたアコースティックギターが立てかけられていた。

「お前、アイドルが歌う曲の作曲なんて、出来るのか?」
「作曲くらいなら、まあなんとか出来る。今や、DTMの時代だからな。問題は、クオリティだ」

 ※DTM=デスクトップ・ミュージック……パソコンや電子楽器を使った音楽演奏、作曲技法。

「クオリティか。音楽のコトは解らんが、やっぱ大変なのか?」
「呑気な顔して、言ってんじゃねェよ。あのユークリッドがプロデュースする、アイドルユニットだぞ。その楽曲だ。下手なモン出した日にゃあ、大炎上確定なんだよ!!」

 マグカップのココアが、テーブルに零れる。
ボクは友人が来訪した理由を、恐らく理解した。

 前へ   目次   次へ