ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第07章・第10話

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アイドル教師の笑顔

「今日も、工事をやっているな。あの辺りに、ライブステージが出来るんだろ?」
 天に聳える高層タワーマンションの最上階から、神さまのように下界の様子を伺うボク。

 生徒たちの何人かがアイドル活動を始めてから、数週間が経過していた。

「5万人収容の、ドーム型全天候ステージらしいわね。このマンションと、ユークリッドの本社ビルの丁度中間地点よ。なんでも地下にトンネルを掘って、3つを一直線に繋げちゃうらしいわ」
 ユミアが、眠そうな眼をこすりながら答える。

「え、そうなのか?」
 天空教室のある高層マンションと、ユークリッドの本社ビルを繋げるというアイデアは、マスコミの攻勢に壁壁としていたボクが何気なく、久慈樹社長に提案したモノだった。

「マスコミのヤツらも鬱陶しいし、ヘンなアイドルファンも居るから仕方ないわね」
「アイドルになった生徒たちの、安全面も考えてくれているのか」

「どうかしら。テミルから聞いた話じゃ、ドームの周辺に娯楽施設をいくつか造るらしいわよ。アイドルグッズを売るショップだったり、アミューズメントパークやレストランだったり」

 ひっきりなしに通る工事車両やダンプも、雲が眼下に見えるコトもある超高層マンションの最上階からだと、まるで子供の頃に遊んだミニカーのようだ。

「それにしたって、やり過ぎじゃないか。この辺りは、セレブなマンション街なんだろ?」
「この辺り一帯が、ユークリッドの土地なのよ。今やユークリッドは、教育動画をアップしているだけの会社じゃないわ」

「確か、ホームページに書いてあったな。不動産に、通信インフラ事業、金融や保険、有機農業、風力発電による電気の販売まで手掛けてるんだろ?」
「多角経営ってヤツね。まるで、財閥みたいだわ」

「それを、ボクと同い年の社長がこなしてるのか。とんでもない経営手腕だよ」
「感心してばかりも居られないでしょ、先生」

「この……有り様じゃな」
 後ろを振り返ったボクの目には、閑散とした教室が広がっていた。

「アイドルのコたちは、初ライブに向けてのレッスンがあるとかで、ここのところロクに授業に出られて無いモノね」
「まったく……これでどうやって、学力を上げろと言うんだ」

「ねえ、先生。今日も、アタシらだけ?」
「そう言うな、レノン。災い転じてじゃないが、お前とアリスの学力もそれなりに上がって来てるぞ」

「だって、マーク先生や枝形先生にまで、密着で勉強させられてるからさ」
「少しは勉強、わかるようになって来たですゥ」

「そうか、アリス。今のまま行けば、試験にも合格できるだろう」
「ホ、ホントですか。よかったのです!」
「だけど、2人とも数学がまだ苦手だな」

 契約当初は、全ての授業を受け持っていたボクも、英語はマーク先生に、理科と社会は鳴丘先生と枝形先生にポジションを譲り、国語と数学だけを受け持つことになっていた。

「なあ、ユミア。2人に、数学を教えてくれたりしないか?」
「え、わたし?」
 いきなり振られて、驚く栗毛の少女。

「キミは、ユークリッドのアイドル教師だ。出来ないコトは……」

「あんなのは、ただの偶像よ!」
 ユミアは、激しい口調で言った。

「大体、わたしが先生を雇ってるんだから、先生が教えるのがスジでしょ!」
「どうしてもイヤならそうするが……ダメか?」

「アタシも、ユミアから数学教えて欲しかったんだ」
「わたしもですゥ」
 レノンとアリスも、ボクの話に乗ってくれる。

「べ、別にダメってワケじゃ無いケド……でもわたし、人前で授業なんかしたコト無いのよ」

「へ、いつもやってたじゃん?」
「アレは動画でしょ。実際には生徒もいないカメラの前で、喋ってただけよ」
「い、言われてみれば……」

「ユミア、別にキミに授業をして欲しいって言ってるワケじゃない。ただ2人と机を並べて、勉強を見てやってくれると助かるんだが」

「そ~そ、最近はメリー先生も忙しくてさ。中々勉強を見てくれないんだ」
「ユミアちゃんは、メリー先生の師匠なのですゥ!」

「わ、わたしは引き籠りだったのよ。メリーはわたしのコトをスゴイって勘違いしちゃってるケド、わたしからすれば2人に勉強を教えられる、メリーの方がスゴイわ」

「まあ固いコト言わずに」
「この問題、わからないのですゥ」
 強引にユミアを机に座らせ、身体を寄せ質問するレノンとアリス。

「し、仕方ないわね。えっと、どの問題?」
「問い3なのですゥ」
「ああ、これね。これはもう少し前の方程式を、応用しなきゃだから……」

 ボクに課せられた、2つの難問。

 『3ヶ月以内に、生徒全員を一定の学力にする』方は、まだまだ大きな不安を抱えていた。
けれども、『アイドル教師ユミアに、笑顔を取り戻す』方は、一歩だけ前へと踏み出せた気がした。

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