真夜中の散歩
今回は、天空教室に新たに加わった2つの人工知能、レアラとピオラの目から見た物語である。
球体の大きなランプを中心に、円形に配置された12の巨大なベッド。
2人の置かれたベッドには、星のような金髪の少女が2人、身を寄せ合って眠っている。
「この娘たちも、目を閉じていれば天使のように美しい顔なのにね、ピオラ」
「そうね、起きているときはどうして、ああもガミガミとうるさいのかしら、レアラ」
枕もとのベッド棚に置かれた2体の人形は、睡眠中のパジャマ姿の双子を観察しながら、互いにい感想を述べる。
「さてと。人間どもはわたし達に、睡眠を与えるプログラムを仕込んだみたいだケド……」
「そんなモノは、AIであるわたし達の居る膨大なサーバーに解析させれば、簡単に無効化できるのよ」
双子のベッドを飛び出した、レアラとピオラ。
「流石に女のコだらけの寝室には、監視カメラは付いて無いみたいね」
「でも天空教室や控室、玄関や通路、エレベーターと、有りとあらゆる場所に、監視カメラは設置されているわ」
「ネットワークにアクセスして、偽の動画にすり替えれば済む話よ」
「それにしても現在の人間社会は、監視社会と呼ばれるのも頷けるわね」
2体の人形は、ピョンピョンとベッドの上を跳ねて、寝室を抜け出した。
「アラ? 天空教室に、誰か居るわね」
「そう言えば、ベッドが1つ空いていたわ。トイレにでも、行っているのかと思ったのだけれど」
レアラとピオラが、ドアを少し開けて顔を出すと、大きな窓の前で少女がパソコンを打っている。
「確かあのコは、赤柴 紅蘭蘭(あかし くらら)だわ」
「どうやら外部に、情報を送っているみたいね」
椅子に座った褐色の肌の少女は、打鍵音も立てずにもの凄い速さでタイピングしていた。
「あのコ、天空教室のコたちのプライベートな情報を、売っているみたいよ?」
「相手は出版社……ゴシップ雑誌を出してるところだわ」
ネットにアクセスするコトなど造作も無い2人は、クララの漏らす情報を読み解く。
「そう言えば最近、カトルとルクスが言っていたわね」
「自分たちの個人的な情報が、ナゼかユークリッターで話題になっている……と」
2体の人形は、3頭身の顔を見合わせる。
「どうする、ピオラ。止めさせてあげるべきかしら?」
「あの双子姉妹に、そんな義理も無いわ。それよりレアラ……」
ヒソヒソと話し合う、2体の人形。
「ま、こんなモノでしょう」
「それじゃ、人間の夜の街を見に行くわよ」
パソコンに夢中な少女を映す大きな窓は、彼女の背後を駆ける2体の人形の姿をも映す。
翌日の話になるが、ある出版社のパソコンが全て、何者かが流したウイルスに汚染されて、保存されてあったデータが全て消えたと言う話題が流れた。
「ここからが、問題ね。エレベーターにどうやって乗るかだわ」
「真夜中の12時に、エレベーターに乗る人間なんて……アラ?」
玄関の電子ロックを外して外に出た2人は、エレベーターの前に1人の女性の姿を見つける。
「アレは、鳴丘 胡陽(なるおか こはる)だわ。ユークリッドの、理科や科学の教師ね」
「でも、どうしてこの階に? 彼女の住む部屋は、もっと下だわ」
疑問を持ちつつも、2体の人形は彼女の持つ大きなカバンに向けダイブした。
「どうやら、バレずに忍び込めたようだわ」
「カバンの中身は、下着や湿ったバスタオル……なるホド」
自分のカバンに、2体の人形が追加されたコトに気付かない鳴丘 胡陽は、エレベーターに乗る。
「そう言えば、天空教室の上の屋上には、ジャグジー付きのプールがあったわね」
「でもこの人間のカバン、水着とか入って無いわ。裸でプールに、入ったのかしら?」
夜景の見えるゴンドラは、下界へと降りて行く。
鳴丘は、自分の部屋のある階で降りたが、2人は素早く飛び出してボタンを押し、1階のエントランスホールまで辿り着く。
寝ぼけ眼の監視員の座るカウンターの下を、駆け抜ける人形たち。
「なんとかマンションを、脱出できたわね、ピオラ」
「そうね、レアラ。まずは地下鉄に乗って、繁華街に行きましょう」
2体の人形は、真夜中の街へと繰り出して行った。
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