ラノベブログDA王

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この世界から先生は要らなくなりました。   第10章・第02話

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試験(テスト)の時

 地下駐車場から天空へと駆け上る、エレベーターのゴンドラ。
窓から見える地上の景色が、まるでミニチュアのように変わって行く。

「こんなにマスコミが集まっているのも、久しぶりな気がするな。しかし月曜にゲリラライブだなんて、肝心の観客は集まるのか?」
 生徒たちのライブの客入りを心配しつつ、高速エレベーターを降りて天空教室へと入った。

「先生、遅い!」
 マンションの最上階を占有する1室の扉を開けると、部屋の主に膨れ面で出迎えられる。

「まだ8時だが……ユミア。キミはいつもなら、寝ている時間だろう」
「う、うっさい。今は人の上げ足とってる、場合じゃないでしょ」
「そうだな。まさかゲリラライブを、試験当日に行なうとはな」

「アイツから、予定の連絡があったわ。午後13時からライブが、フェリチュタスアレーナで行なわれるんだって。試験は、ライブ後になりそうよ」

「久慈樹社長も、今回に関しては一方的だな。事前にテストの日程や条件を、提示しなかったこちらに非があるってワケか」
「反論したら、その通りの台詞を言われたわ」

「ヤレヤレ、どうしたモノか。アイドルをやってる全員が、教室に居ないんだろ?」
 玄関で靴を脱ぎ、天空教室へと移動するボク。
案の定、教室に居たのは、レノンとアリスとクララだけだった。

「予想はしていたが、壊滅的だな。アイドルを輩出していることで有名な学園ですら、アイドル率はここまで高くは無いだろうに」
 ボクは教壇に片肘を付きならが、ため息を吐き出す。

「それにしてもアイツったら、最後の最後でとんでも無い妨害に出たわね」
 今日はまだ栗毛のユミアは、生徒として自分の席に座った。

「これまでが、大人し過ぎたのかも知れないな」
「みんながアイドルにされちゃったのには、もっと驚いたわよ」

「規模的に考えればそうだが、時間が切迫しているという点では、今回の方が遥かに厄介ではあるな」
「付け焼刃にしたって、勉強を教えれる相手が居ないんじゃ、どうしようも無いモノね」

 ボクもユミアも、心が折れていたのだろう。
建設的な言葉が、出て来なかった。

「短い付き合いだったわね、先生。諦めて、荷物をまとめて出て行く準備でもしたら?」
 褐色の肌の少女が、足を組んで机の上に座っている。

「なんだよ、クララ。先生に対して、失礼だぞ」
「なにが失礼なのかしら、レノン。先生だって、もう諦めてるのよ」
「どうしてそんなコトが、お前に解るんだよ!」

「テストが行われるのは、今日なのよ。そして、ゲリラライブが行われるのも今日。つまりアイドルになる道を選んだコたちは、ライブで疲れ切った状況でテストを受けさせられるワケ。それで、本来の実力が出せて?」

 ワインレッドのウェーブのかかったポニーテールが、クララの頭の後ろで揺れている。
サソリの針のように鋭利な言葉に、レノンは反論が出来なかった。

「厳しいのは確かだがな、クララ。ボクはまだ、諦めちゃいないぞ」
 自分自身が意外に思う言葉を、ボクの口は紡(つむ)いでいた。

「そ、そうよ。アイドルになったみんなだって、なんの努力もして無かったワケじゃない。レノンもアリスも、少しずつだケド勉強して積み上げて来たのよ」

「ユミア先生とメリー先生に、みっちりしごかれたモンな」
「苦手な数学も、かなり解るようになって来たのですゥ」

「クララこそ、ここに来て手を抜くなんてコト、無いでしょうね」
「モチロン無いわ。久慈樹社長の手駒として、これ以上動かされるのもシャクだしね」
 ユミアとクララが、睨み合っている。

「問題は、アイドルとしてのライブを終えた生徒たちの、コンディションだな。時間的に言って、今日全ての科目のテストを行うとも思えないが……」

「どうかしらね、先生。相手はあの、久慈樹 瑞葉なのよ」
「否定し切れないところが、辛いな……」
 ボクは、苦笑いを浮かべた。

 試験(テスト)の時は、刻一刻と近づいて来ていた。

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