ウー
ゲーによって、崩れ去ったビルの階段エントランス部分。
ボクはゼーレシオンを使って、崩れた瓦礫を丁寧に取り除く作業を続けていた。
「残念だケドこれ以上、キミたちの救出にゼーレシオンは使えない」
巨大なドームによって庇護された敷地を出れば、漆黒の雨が降り注いでいる。
ゲーとの闘いを終えたゼーレシオンの巨体も、有害な雨を浴びてしまっていた。
「敵の気配は無いケド、この黒い雨に当たったらマズいんだろう?」
その質問は、自分にも返って来る。
果たしてボクは、放射能や科学物質にまみれた天候の中で、どうやってゼーレシオンに乗り込んだのだろうか?
やはり、ゼーレシオンのコックピットハッチの中には、誰も乗ってないんじゃ……。
「建屋が崩れて、こっちにも少し雨が流れ込んで来てるわ」
シャラ―・アダトから聞こえる、逼迫した黒乃の声。
「そ、それはマズいぞ。ボクの時代にも、地震で原発事故があったから、少しは放射能の恐ろしさを知っているつもりだ」
知っていると言っても、ニュースで見たくらいの浅い知識に過ぎない。
けれども高濃度の放射能は、簡単に人を殺すと言う事実は知っていた。
「シャラー・アダドはまだ、雨を浴びていないの。建屋に寄せるから、周辺の警戒をお願い」
「了解だ。くれぐれも、気を付けてくれ」
無人で遠隔操作の女性型サブスタンサーは、単調な動きで崩れた建屋へと近づいて行く。
入れ替わったゼーレシオンの、長い触覚で周囲を探知するが、なにも気配は無かった。
「それにしても、ここがあの東京だなんて信じられないな」
1000年前に八王子と呼ばれ、今は孤島となった都市。
敷地の多くは基地となっていて、ゼーレシオンの他にもサブスタンサーが何機か見受けられる。
「台地で標高が高かったから、この辺りは海に沈まなかったのか。23区はスッポリ黒い海の底だなんて、皮肉なモノだな」
ボクが眠っている間に、人類が経験した核を使った何度かの戦争。
地球の環境は破壊され、恐らく世界地図すら水没して大きく変わっているのだろう。
「宇宙斗。今から、ワイヤーで上に上がるわ」
「外は静かなモノだ。ゲーが沈黙したせいか、アーキテクターが襲って来る感じはないよ」
シャラ―・アダトはコックピットハッチを開き、階段建屋の前に両ひざを付いてかがんでた。
その時、ゼーレシオンの長いセンサーが、僅かな揺れを感じる。
「黒乃、今僅かに揺れを感じた」
「ここは火山列島だし、軽微な地震は年中発生しているわ」
黒乃がくれた情報は、日本人であるボクにとっては周知の情報だ。
でも、揺れに違和感を感じる。
「それでも何か、イヤな予感がする。気を付け……」
そう言いかけたボクは、咄嗟に後ろに飛びのいた。
「な、なにかが襲って……黒乃!?」
敷地全体に無数の触手が降り注ぎ、地面に突き刺さっている。
「どう言うコトなの。ゲーは沈黙しているのよね!?」
黒乃の声を聴き、ドームの天井を見上げると、小さな穴が所々に開いていた。
「ゲーの他にも、敵が居たんだ!」
新手の敵が、天井の上に存在するのは間違いない。
ボクはジャンプして、敵が開けた穴から都市全体を覆うドームの上へと降り立った。
「聞こえるか、黒乃。やはりドームの上に、もう1体敵が居た!」
周囲には、止むコトを知らない暴風雨が吹き荒れている。
最悪の視界の中でもゼーレシオンの巨大なカメラアイは、敵の姿を捉えていた。
「今度は、タコみたいなヤツだな」
敵は、下半身がタコのような触手になっていて、ドームの広範囲に触手を突き刺している。
「しかも、とんでも無く巨大だ……」
敵は、ゲーと同じ巨大な1つ目の顔で、上半身も6本の腕を持っていた。
『我は、ウー。全天の支配者』
異形の大ダコが、そう言いながら、巨大な眼球が、ゼーレシオンを睨み付けた。
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