漆黒の海の魔女との激闘
「わたしは、フェブ・ライザーで空間に居る。メルクリウスと、宇宙斗艦長も出てくれた」
ゼーレシオンの高感度センサーが、バルザック・アイン艦長と艦橋(ブリッジ)との通信を傍受する。
冥界降りの英雄のサブスタンサーの名が、判明した瞬間でもあった。
「これより我々は、左舷から敵を攻撃する。各砲は右舷にのみ、火力を集中してくれ」
宇宙戦艦プロセルピナの艦長として、部下に的確な指示を与えながらも、先陣を切って漆黒の海の魔女に向っていくバルザック。
艦長の指示通り、3門ある主砲は、右舷に絡み付いた触手に向けて一斉に火を吹いた。
数ある副砲も、狙える角度のモノは砲火を放っている。
「バルザック大佐、先行し過ぎないで下さい。相手は、我々よりも遥かに巨大なんです」
メルクリウスさんのテオ・フラストーが、慌てて後を追った。
「わたしのフェブ・ライザーは、全身が鋭い刃(ブレード)となっている。我が探査船を襲った、時の魔女の配下に対抗しうる装備になっているのだよ」
鋭利な刃物のようなデザインの漆黒のサブスタンサーは、宇宙戦艦に絡み付く巨大な触手を、いとも簡単に両断する。
人類が初めて手にした黒曜石(こくようせき)のナイフで、獲物の肉を切り裂く様だった。
「ボクも行きます。メルクリウスさんは、援護をお願いします」
ケツァルコアトル・ゼーレシオンで、漆黒の海の魔女に突撃を仕掛けるボク。
「フラガラッハッ!!!」
全てを斬り裂く剣が、魔女の触手を次々に切り刻んで行った。
「了解ですよ、ボクは援護に回りましょう。切り裂かれた触手も、まだ生きてるようですからね」
テオ・フラストーは、ウネウネと動く巨大な触手を、ガントレットからの光弾で破壊する。
艦砲の集中砲火もあって、プロセルピナに張り付いていた漆黒の海の魔女は、切り離された。
「まったく、我が妻の肌に傷を付けてくれる」
星を映すプロセルピナの外部装甲も、魔女に抱き付かれたコトで激しく損傷している。
「あとは、ボクに任せて下さい」
ボクは、ゼーレシオンの左腕シールドを展開させた。
「アレを、やるつもりか」
「ええ、そうでしょう」
もう2人には、今後の展開が読めていたのだろう。
「ブリューナグ!!」
巨大な光弾が、ゼーレシオンの真上に発生した。
ボクはそれを、漆黒の海の魔女に向けて投げ付ける。
戦艦並みの巨体を持つ魔女は、ブリューナグをかわすコトは出来ず、何本もの触手の生えた中央部分に大きなダメージを与えた。
「プロセルピナ。今使える全砲塔を、漆黒の海の魔女に集中せよ!」
冥界降りの英雄が、檄を飛ばす。
3門の主砲や数ある副砲が、一斉に火を吹いた。
幾線のレーザー光線が重なって、動きの止まった魔女に直撃する。
激しい閃光が宇宙に広がり、漆黒の海の魔女は魔女の形態になるコトなく爆散した。
「よし、やったぞ!」
「ついに時の魔女の手下を、仕留めたんだ」
艦橋で騒ぐ乗組員(クルー)たちの声を拾う、ゼーレシオンのカミキリ虫のような触覚。
「2人とも、協力を感謝する。艦に帰って、少しばかりの祝杯を上げようじゃないか」
バルザック・アインは言った。
「ええ。ですが格納庫は、潰れてしまいましたよ」
「そうだったな。どの道、プロセルピナの修理は必要となるだろう。基地に、帰投する他あるまい」
「基地は、どこにあるんです?」
「基地と言っても、探査拠点としての基地だがね。死んだ妻やスタッフたちと共に、太陽系外縁天体を探査するのに使っていた、移動が可能な宇宙ドッグさ」
応急処置で格納庫を修理し、外に出ていたサブスタンサーを収納すると、宇宙戦艦プロセルピナは進路を宇宙ドッグに向ける。
「アレが、件(くだん)の宇宙ドッグですか?」
「半分くらいが、氷の巨大な岩になっていますね」
1日が経過した頃、ボクたちの前に現れた小さな天体。
「宇宙ドッグ・コキュートス。半分は、天然の天体を利用させて貰っている」
冥界降りの英雄は、その名に相応しい基地を自慢げに語った。
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