地下鍾乳洞
「チッ、逃げられた……ってより、相手にもされて無ェ感じだな」
バルガ王は、口惜しそうに吐きすてる。
「ケイダンって名乗ってたケド、魔王としての名はケイオス・ブラッド。本来の能力は、あんなモノじゃないわ」
カーデリアは、敵の強さを仲間と共有した。
「だがよ。いくら強敵だからって、悪巧みを放っておくワケにもいかんだろ」
「そうね……まずはわたしとジャイロス騎士団長、バルガ王の3人で、アイツの跡を追いましょう」
「居場所は、解るのか?」
「舐めないで貰いたいわね。魔物に撃ち込んだ矢は、目標(ビーコン)にもなっているのよ」
「ソイツは失礼した。それじゃあ先導を頼むぜ、カーデリア」
「え、ええ。こっちよ」
バルガ王の横顔に、赤髪の幼馴染みの面影が重なり、微(かす)かに頬を赤くするカーデリア。
気付かれないよう、素早く会議室を出た。
「ジャイロス殿、オレたちも急ご……おっと!」
「うわぁッ、バルガ王!」
会議室と廊下の間の扉で、鉢合わせするバルガ王とベリュトス。
「すみません。コイツを運んでたんで、前が見えま……あ」
両腕に抱えた、大量の甲冑や服の横から顔を出したベリュトスの瞳に、可愛らしいお尻が映る。
「キャアア、こっち見るんじゃねェ!!」
桜色のユルふわショートヘアの少女が、ピーコックグリーンの瞳で睨み付けていた。
「ゲッ、キティ!?」
キティオンは、3人の少女騎士を身体で隠すように背中を向け、頭だけベリュトスに向ける。
「いいから早く、そいつを置いて出てけ!」
彼女は何も身に付けておらず、後ろの3人の少女も何も身に付けてはいない。
「オ、オメーらの服を、持って来てやったんだろ。ホラよ!」
ベリュトスは、持っていた荷物を全て会議室に放り込むと、慌てて扉を締めた。
「バルガ王。オレも、付いて行っていいっスかね?」
「ここに居ると、キティオンに半殺しにされそうだしな。ヨシ、付いて来い」
「あざっス。ビスティオさん、後は頼む!」
「わ、解りました!」
先代騎士団長の娘は、後事を引き受け会議室へと入って行く。
バルガ王とジャイロス、そしてベリュトスを加えた3人は、カーデリアを追った。
山と山とを繋ぐように建設された、ゴルディオン砦。
その片方の山から流れ出た水のせせらぎは、清流となって正門の前を通る川となる。
「よもや要塞の地下にも、川が流れていたとはな」
黒い髪の男が、茶色く輝く地下空間を流れる川を前に呟いた。
天上からは鍾乳石が垂れてつららとなり、その下には石筍(せきじゅん)が伸びている。
川の水は透明で、小さな魚まで生息していた。
『ギイイ』、『シャアァ』
ケイダンの左右を挟むように、蛇の髪の毛をした魔物が、蛇の下半身を這わせ進んでいる。
蛇の如くうねった川は、巨大な地底湖へと続いていた。
「どうやらアレが、お前たち3姉妹の最後の1本、エキドゥ・ステンノーズのようだな」
翡翠色に澄んだ湖の底には、異形の剣が刺さっている。
「これでサタナトスが手にする天下七剣は、3振りか……」
ケイダンが、バクウ・プラナティスを高くかかげると、メドューサスとエウリュアレーズの腹部から、2本の剣が出現した。
2体の魔物を構成していたトカゲ少女たちが、地下湖の岸辺に放り出される。
2振りの剣は湖面へと進んで行き、湖底に刺さった剣と光の三角形を形成した。
「さあ、姿を見せろ。エキドゥ・ステンノーズ」
ケイダンの要求に答えるかのように、静かだった湖の湖面が渦巻く。
金色の光に包まれる、3本の邪眼の剣。
「なによ、これ……」
「一体、なにが起こってやがる」
カーデリアやバルガ王ら一行は、地下に広がる褐色の鍾乳洞が、眩い白に輝いているのを目撃した。
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