ラノベブログDA王

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ある意味勇者の魔王征伐~第12章・24話

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刻影剣

『どうやらここが、ゴルディオン砦の中央指令室ね』
 石の壁や床に囲まれた両開きの扉の前で、パッションピンクの髪の少女が息を潜め立っている。

『中に、かなりの人数が居る。でも、殆どが人間じゃない。それに……』
 石材で作られた砦には、天井裏などと言う都合の良い場所は無かった。
部屋の外から音と感覚で、中の様子を探るほか無いカーデリア。

『アイツが来ている。ケイオス・ブラッド……』
 それは、魔王と化したケイダンの名であり、最愛のシャロリュークを討った相手でもあった。

 怒りと恐怖が、少女の内から同時に湧き上がって来る。
けれども今は、それらを全てねじ伏せなければならなかった。

「さて、ジャイロス。これでお前は、嘘を言う理由を失った」
 長机の上座に座ったケイダンの前に、ひれ伏す灰色の髭の男。

「それは、どうかは解らんぞ!」
 いきなりジャイロスが、腰に佩(は)いだ剣を抜いた。
けれども剣の切っ先が向かった先は、ケイダンでは無く娘の方だった。

「お、お義父さま……!?」
 驚く、ビスティオ。
けれども彼女は、直ぐに義父の意図を理解し目を閉じる。

「オレの持つこの剣の主だった男も、オシュ・カーと同じ魔王討伐パーティーに参加していた」
 背中に差した剣を抜く、ケイダン。

「なッ!?」
 先代の団長の忘れ形見である娘が、ジャイロスの目の前から消え去る。
騎士団長の剣は、虚しく空を斬った。

 体勢を崩し倒れる、騎士団長。
トカゲのシッポを生やした少女たちが、壁際でクスクスと笑っている。
ビスティオは、いつの間にかケイダンの左脇に抱えられていた。

「時空を切り裂く剣……まさか、『刻影剣・バクウ・プラナティス』か?」
 起き上がって再び剣を構える、ジャイロス。

「その剣は、蜃気楼の剣士と謳われた、ムハー・アブデル・ラディオ殿のモノだったハズ……」
 間合いを取り、相手を観察する騎士団長。
ケイダンの右手には、錆びた青銅色の石のような剣が握られていた。

「そうだ。この剣の主だった男は、魔王との戦いから逃げ延びた唯一の生き残りだった。だが、運命とは残酷なモノでな……」
 気を失ったビスティオを、トカゲ少女たちの方へと放り投げるケイダン。

「ラディオ殿ほどの男が、命を落とされた……噂は真実であったか」

「男が弱かったから、死んだのだ。他に、理由などない」
 自らの師だった男を、他人行儀に蔑(さげす)む。

「さて、この堅牢なハズの砦にも、ネズミが何匹か迷い込んだようだ」
 ケイダンは、右手に持った剣で、トカゲ少女たちの何人かを斬り付けた。
時空が大きく裂かれ、トカゲ少女たちが裂け目へと飲み込まれて行く。

 ゴルディオン砦の中枢会議室内で行なわれていた、出来事。

「……なッ!?」
 その様子を、部屋の外から神経を研ぎ澄まし探っていた少女が、ハッと目を開けた。

「なんてヤツなの、アタシのコトなんて、とっくに気付いて……!?」
 カーデリアの周囲の石壁や、両開きのドアに時空の裂け目が出現する。

「あ、砂漠のオアシスで、遭ったヤツだ!」
「アンタあの時、わたし達が石にしちゃったんだよね」
 裂け目から現れた少女たちは、髪をヘビのように波立たせ、カーデリアを睨んだ。

「アハハ、コイツまた石になってやんの」
「ちょッ……待って。これ、ローブだけじゃない!?」
「アイツは、何処へ行ったのよ!」

 石化したと思われたのは、カーデリアの羽織っていた風のローブだけだった。
色味を失ったローブが、地面に接触し砕ける。

「マ、マズいんじゃない?」
「アイツを逃がしたって知ったら、またケイダンに怒られちゃう!」
「は、早く探さないと!」

 慌てたトカゲ少女たちは、2~3人ずつに別れて闇雲に砦の中を走り回った。

「ヤレヤレ……まるで頭の回らない、姉妹たちだ。アズリーサが、どれだけ優れていたかが伺える」
 騎士団長の椅子に座っていたケイダンが、ため息を吐き出す。

「そう、アンタもサタナトスの関係者なのね……」
 長いテーブルの真っ白のテーブルクロスを、踏みにじりながら少女が言った。
少女は、パッションピンクのショートヘアをしている。

「昔の話だ。それにお前も、アイツらに負けず劣らず愚かな女だ」
 彼の瞳には、自分に向かって弓を番(つが)える少女が映っていた。

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