3本の蛇剣
蛇の頭髪と、蛇の下半身を持った2匹の魔物たち。
「グヌッ、来るか!」
ジャイロスは、女王陛下より下賜された、大盾エルスター・シャーレを身構える。
けれどもメドゥーサスと、エウリュアレースは、散々に跳ね返された正面からの攻撃を避け、左右に展開して攻撃を仕掛けた。
「マ、マズいわ!」
「いくら聖なる大盾っつったって、左右からの攻撃はガラ空きじゃねェか!」
カーデリアと、バルガ王が叫ぶ。
『ギシャアァァ!!』
『フガアアァァ!!』
トカゲ少女たちが重なって生まれた2体の魔物の、長い爪が左右から襲い掛かった。
ビシャッと音を立て、激しく吹き上がった血飛沫(しぶ)き。
壁にかかっていた歴代騎士団長の肖像画を、赤く染める。
「ジャ、ジャイロスさん!!」
「キティオン、無事……な、なんだァ!?」
覇王パーティーの誇るバニッシング・アーチャーと、海底都市カル・タギアの王が見たのは、床に転がった魔物の腕やシッポであった。
「見て、バルガ王。大盾の後ろから、おかしな金属の板が伸びてるわ!」
「アレが、魔物の腕やシッポを斬り落としたってのか?」
「ウルミか。中々に、珍しい武器を持っているな」
静観していたケイダンが、口を開く。
「ウルミ……雪影に、聞いたコトがわるわ。確か東方の異国で使われている、異形の長剣よ」
「長剣か。オレの黄金剣クリュー・サオルも、長剣の部類だろうが、流石にアレには勝てんな」
王は、ジャイロスの構えた大盾の背後から伸びている、無数の薄い金属板を見上げながら言った。
「これは蒼き髪の勇者が従えた、元魔王の少女たちが営む武器屋で、手に入れたモノ」
「ナゼか石化も黄金化もされず、お腹に巻き付いておりましたが……」
「まさか、このような強力な武器であったとは、驚きです!」
大盾の背後から聞こえる、アルーシェ・サルタール、ビルー二ェ・バレフール、レオーチェ・ナウシールの声。
「わたしの蛇剣の銘は、アレークトー(止まない者)」
「わたしの蛇剣の銘は、ティーシポネー(殺戮の復讐者)」
「わたしの蛇剣の銘は、メガイラ(嫉妬する者)」
3人の少女騎士は、それぞれの剣の銘を名乗る。
すると、長く伸びた金属板の表面にイバラのトゲが出現し、メドゥーサスと、エウリュアレースに攻撃を仕掛け始めた。
「……あの時の、剣か。よもやこの様なカタチで、蒼き髪の勇者の助力を、受けるとはな」
魔王と化したシャロリュークが穿った穴に出来た湖の畔で、営業を始めた因幡舞人武器屋のコトを思い出す、ジャイロス。
『グギャアァァッ!?』
『フガアアァァ!!』
上下左右からの変則的な攻撃に、防戦一方の2体の魔物。
腕やシッポは再生されつつあったが、再生される度に3枚のウルミに削り取られて行く。
「ジャイロスさん、気を付けて。まだアイツの、バクウ・プラナティスがあるわ」
「心配には及ばん。姫さまより下賜されたこの盾は、どうやらあの者の時空移動を、ある程度の範囲内で防いでおるようだ」
「フッ、すでにその盾の能力を、使いこなしていたか。流石はザバジオス騎士団の団長と、言ったところではあるな」
団長の椅子に座ったままのケイダンが、幻影剣を振り上げた。
時空の裂け目は、バルガ王やジャイロスではなく、2体の魔物の方を飲み込む。
「また何処から襲ってくるか、わからねェ。油断すんなよ」
黄金剣を構える、バルガ王子。
「それには及ばん。アイツらは、すでに第3の剣の元へと飛ばした」
「第3の剣ですって!?」
「バ、バカな、剣の在り処は誰にも……」
「そんなモノは、とっくに感知していた。少し、遊んでやったまでだ」
「クッ……貴様!」
「最後に残った剣の銘は、エキドゥ・ステンノーズ。3つの剣が集えば、天下七剣の1振りとなろう」
自らの身体に、時空の剣を放つケイダン。
ザバジオス騎士団長の椅子には、誰も座っては居なかった。
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