聖盾エルスター・シャーレ
「ど、どうするよ、キティ!?」
「オワッ、どさくさに紛れてこっち見んな………てか、粗末なモンさらすな!」
「だ、誰が、粗末だ!」
素っ裸のバルガ王の側近2人は、長テーブルの下へと避難する。
「咄嗟(とっさ)に黄金に変えちまったのは、流石にマズかったか?」
「イイヤ、それ以外にソイツらが助かる方法は、無かっただろう」
バルガ王の質問を、ケイダンが答えた。
「それにしても、意外だ……」
「一体、なにが意外なんだ?」
「ソイツらの石化が、解除されたコトだよ」
「ヘッ、そんなコトも解らないのかよ。黄金剣『クリュー・サオル』は、斬ったモノを黄金に変えられる。コイツらが石化するより先に、黄金剣の光が……」
「違うな。黄金剣の光が届く前に、ソイツらの石化は完了していた。少なくとも、騎士の小娘どもは完全に石像になっていた」
「まあ、言われてみりゃあ、その通りかもな」
バルガ王は、大盾の向こうに隠れた少女騎士たちに目をやる。
「本来ならば、例え黄金化を解除したところで、ただの石像に戻るハズなのだ」
「で、アンタの見解はどうなんだい、ケイダン」
「簡単な話さ。お前の持っている剣は、石化を解除する能力を持っている。ただ、それだけのコトだ」
「へえ、お袋の形見の剣に、そんな能力があったなんて驚きだぜ」
海の女王から授かった黄金の長剣は、切っ先が妖しく揺らめいでいた。
「それって、スゴいコトだわ。バルガ王さえ無事なら、あの魔物たちの石化能力に怯える必要は無いってコトよ!」
カーデリアの、奏弓・『トュラン・グラウィスカ』が複雑な弦が揺れる。
『ギャアァァッ!』
『ヒヤアァァッ!?』
全身に矢が刺さり、悲鳴をあげるメドゥーサスと、エウリュアレース。
「邪眼の魔物の、目を潰したわ。今よ、バルガ王!」
「応よ!」
カーデリアの合図に呼応した、王の黄金の長剣が、2体の魔物の首を狙う。
「ヤレヤレだ。天下七剣の素体となる剣の能力を入れても、この程度とは……な」
ケイダンは、自分の前の空間を切り裂いた。
「クソッ、逃げやがったか!」
黄金剣は空を斬り、2体の魔物は異次元へと飛ばされ、テーブルクロスの無くなった長テーブルの上に落下する。
「ほわぁッ!?」
「キャアアッ!!」
テーブルの下から慌てて逃げ出す、裸のベリュトスとキティオン。
「キティ、お前はジャイロスさんの盾に、隠れてろ!」
ベリュトスは前転をして逃れると、壁際で倒れていた女性を抱き起こす。
女性はビスティオと言い、ジャイロスの養女だった。
「大丈夫かい、アンタ?」
ビスティオの頬を叩いて、気付けをする。
「ン……ここは……キャアアッ!?」
「わ、悪いんだが、アンタに一仕事頼みたい。この砦にある、服か鎧を用意してくれないか?」
ベリュトスは戦いの場から、ビスティオを逃がした。
「だが、これで形成は逆転だな。お前の配下の魔物は、石化能力を封じられたぜ」
「どうかな。確かにアイツらは、戦いに関しては素人だがな……」
「なにィ!?」
慌てて背後を振り向く、バルガ王。
大盾を構えるジャイロスの前に、矢を抜き去った2体の魔物が立っていた。
「アイツら、石化能力を回復しているわ!」
再び矢を番(つが)える、カーデリア。
けれどもケイダンのバクウ・プラナティスが、それを阻止する。
「マ、マズい。いくら聖盾エルスター・シャーレと言えど、防戦一方では……」
メドゥーサスと、エウリュアレースの、爪とシッポによる連続攻撃が、大盾を持ったザバジオス騎士団長をジリジリと後退させていた。
「こ、これでは、戦えません!」
「そ、それどころか、脚を引っ張ってしまってますわ!」
「ど、どうすれば!?」
大盾の後ろに隠れた、アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの3人の少女騎士。
彼女たちの着ていた服や鎧は、黄金の欠片となって周囲に散らばっていた。
「ね、ねえ。アンタたちの、腹に巻き付いているのって!?」
後から加わったキティオンが、少女騎士たちの腹を指さす。
『ギシャア!!』
『フュビャアッ!!』
2体の魔物は、同時に最大限の攻撃を仕掛けた。
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