邪眼剣エレウシス・ゴルゴニア
「わたしが眠っている間に、何が起こっていたか知らないケド、もはや剣の封印など夢物語よ」
ゲー・メーテルが、黄金の剣を奇怪に振りかざしながら、バルガ王に斬りかかる。
「なぜなら、すでに3本の剣は1つとなり、大地母神たるわたしも、復活したのだからね!」
邪眼剣、エレウシス・ゴルゴニアの3つ並んだ瞳が開き、黄金の眩い光りが辺りを覆った。
「マ、マズいぜ……この光は!?」
王の懸念した通り、光を浴びた洞窟の鍾乳石や木々、水や川を泳ぐ魚に至るまで色褪せた石と化す。
「わたしの剣の前で、石にならずに済んでいるのは、せいぜい忌々しい聖盾に護られた連中くらいよ。ねえ、可愛らしい坊や」
ゲー・メーテルは、石像と化したバルガ王に甘い言葉で語りかけた。
「バ、バルガ王が、石像にされちまった!?」
大盾に隠れながら、頭を抱えるべリュトス。
「いいえ、そうでも無いみたいよ」
「えッ……どう行言うコトですか、カーデリアさん!?」
「ホラ、見て。王が石化したのは、薄皮1枚に過ぎないわ」
カーデリアが指摘した通り、石像と化したハズの王の身体のあちこちから、石化した表面が脱皮したかのようにボロボロ落ちる。
「ホウ、なかなかやるわね、坊や。自分の身体の表面を、黄金に変えていたのね」
ゲー・メーテルは、足元に散らばった薄皮に目をやった。
そのどれもが、内側が黄金に輝いている。
「アンタの剣の石化能力は、どうやら表面から伝わるみてェだからな」
「そう。でもわたしの邪眼剣エレウシス・ゴルゴニアの力は、こんなモノでは無くてよ」
「な……ッ!?」
バルガ王は、その場で片膝を付く。
海で鍛えられた屈強な身体から、生気が漏れ出ているかの様だった。
「バ、バルガ王!」
大盾を構えて皆を守っていた、ジャイロスが思わず声を上げる。
「ジャイロス騎士団長。どうして王は、あんなに弱ってんだ!?」
「恐らくだが、あの地母神の剣の能力は、単純な石化などではなく、生命の営みを司っているのだ」
「難しいコトは、解らねェっスよ。もっと簡単に、頼めませんか?」
「多くの生命は、春に生まれ、夏に成長し、秋に子を産み、冬に大地に還る。石化とは、生命が死滅する冬の状態を表しているのではないか……」
「まだ、ワケが解らないっス」
「もの凄く簡単に言えば、エナジードレイン……王は剣に、精気を吸われてんのよ!」
カーデリアは、奏弓トュラン・グラウィスカを、バルガ王とゲー・メーテルの間に撃ち込んだ。
「よし、アイツが怯んだぜ!」
べリュトスが、大盾の安全圏から飛び出し、王に肩を貸す。
「フフ、愉しませてくれるでは無いか」
大地母神の周辺の壁や地面から、ツタやイバラが勢いよく伸びて、王とべリュトスを襲った。
「バルガ王。こっちは任せてくれ!」
「スマン……な、ベリュトス」
ベリュトスは王を背に乗せ、オシュ・カーの槍を使ってそれらを薙ぎ払う。
「クソ、キリが無ェぜ!」
両腕に持った2本の槍をフル回転させても、生い茂る木々や花々から溢れ出る、ツタやイバラの数に追いつかなくなっていた。
「ガハッ……しまッ!?」
ツタやイバラに絡め取られ、激しく締め上げられる2人。
「す、すいません、バルガ王……」
「イヤ。オレが動ければもっと、やり様はあったんだろうがな」
「なんだ、もうお終いなの。詰まらないわ」
機嫌を損ねるゲー・メーテルの周りで、鍾乳洞の大半が緑に覆われていた。
「ダメ。ここからじゃ、木々に阻まれて当たらないわ」
カーデリアの神技を以てしても、王たちを縛るツタやイバラに矢を当てられない。
「このまま殺してもイイんだケド、その前に石になって貰いましょうか」
自ら生み出した木々や花々は、枯れ果てながら色を失って行った。
「ク……こんなところで、死ぬワケには……ティルスに、会わす顔が……」
バルガ王は、力の抜けた身体を無理やり動かそうとする。
けれども石と化したツタやイバラに、身動きすら儘ならなかった。
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