苦笑い
「カーデリアさん。こりゃあ、どう言うコトだよ!?」
「なんでケイダンってヤツは、味方のハズのトカゲ少女を攻撃したんだ!?」
王の側近であるベリュトスとキティオンが、パッションピンクの髪の少女に問い掛けた。
「アイツの目的は、天下七剣(セブン・タスクス)よ。そして、彼女たちを貫いた2本の剣が、魔眼剣『エギドゥ・メドゥーサス』と、『エギドゥ・エウリュアレース』……」
2本の剣に串刺しにされた、トカゲ少女たち。
魔眼剣は、それぞれに黒い霧を吹き出し、貫かれなかった少女たちをも飲み込んで行く。
「いいえ。2本の剣は、完全体じゃない。恐らく、天下七剣の素材となる剣よ」
バニッシング・アーチャーは、何度も矢を番(つが)えてトカゲ少女たちに打ち込んだ。
けれども矢は、少女たちの身体に届く前に黒い霧に触れ、石化して砕ける。
「流石の観察眼だな。そして素材となる最後の1振りが、この砦にあるのだ」
団長の椅子に座ったままのケイダンの左右に、2本の剣に貫かれた『トカゲ少女たちの塊』が、近寄って行った。
「ア、アレはもう、黒い霧でしかない……」
「でも、霧から強大な魔力を感じるわ」
「なにかとてつもないモノが、中に潜んで……」
「あの霧を、見てはならぬ!」
アルーシェ、ビルー二ェ、レオーチェの前に、ジャイロスが大盾を身構え立ちはだかる。
「一歩、遅かったようだな」
「……なッ!?」
ジャイロスが振り返ると、3人の少女騎士の石像が、悲痛な顔のまま固まって並んでいた。
「邪眼の魔物、メドゥーサス、エウリュアレースよ。現れるがいい!」
サタナトスの盟友が言い放つと、2つの黒い霧から2体の魔物が出現する。
「みんな、目を閉じて。姿を見ちゃダメ!」
「え……ああッ!?」
「キャアアアァーーッ!!」
バニッシング、アーチャーが叫んだが、王の側近2人が間に合わず石化した。
目を閉じ、気配だけで相手の魔物を察知するカーデリア。
魔物は、頭に蛇の髪を生やし、手足はブロンズ色で長く、背中には黄金の翼を生やしている。
蛇のような下半身は、大きく蜷局(トグロ)を巻いていた。
「こうなったら、あの2体の魔物を倒すしか方法が……」
「言って置くが、たとえこの2体の魔物を倒したところで、石化は解けん」
ケイダンは、カーデリアの僅かな希望を、あっさりと打ち砕く。
「石像は、砕かれれば再生は不可能。砕け散った騎士たちのように、バラバラにしてやれ」
ケイダンは、左右の魔物に石像の破壊を命令した。
『グギャア!!』
『フガアッ!』
完全に理性の失われた2体の魔物は、石像と化した5人に攻撃を仕掛ける。
「クッ、させるか!」
バルガ王は、黄金の長剣を振りかざした。
黄金剣『クリュー・サオル』の光を受けた2体の魔物は、黄金の像へと変化する。
「やったわ。でも残念だケド、5人を元に戻す方法は……」
悲嘆に暮れる、カーデリア。
「イヤ、あるぜ。こうするのさ!」
バルガ王は、再び黄金剣を一閃した。
「フッ、なるホドな」
ほくそ笑む、ケイダン。
王の剣から放たれた光は、5体の石像を黄金像へと変化させていた。
「……あ、あれ?」
「……アアァァ……ンンッ!」
豆鉄砲を喰らった鳩の如く、キョトンとする2人の側近。
「オ、オレたち、なんで無事なん……」
「確か魔物を見てしまって、石化……」
ベリュトスとキティオンは、そう言いかけて再び固まる。
「ベ、ベリュトス。キ、キサマ、なんで裸なんだ!!」
「お、お前の方こそ、スッポンポンじゃねェか!?」
互いの格好を非難し合う2人は、やがて自分の身体に目を向ける。
「キャアァ、なんで裸なんだ。み、見るな、バカァ!」
「バカってなんだよ。つか、どうすんだよ、これ!」
とりあえず手で局部を隠した2人は、王を睨んだ。
「スマンな、2人とも。どうやら服や装備までは、復活させられなかったみてェだ」
王は苦笑いを浮かべ、騎士団長に目を移す。
「ジャイロスさま……」
「絶対に後ろを、振り向かないで下さい!」
「見たら、一生お恨みします!」
「わ、解っておるわ……まったく」
大きな盾で、3人の少女騎士の身体を隠したジャイロス・マーテスも、苦笑いで返した。
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